こんなとき、いつだって考えるのは貴男のことだ。


 息子が生まれる前、一緒に旅行に行ったことを思い出す。北海道、軽井沢、ネズミーランド、大阪、沖縄、新潟の温泉……それから、それから……。

 貴男はもういないのに、ぬくもりが欲しくて自分で自分の頭を撫でてみたりする。

 あのごつごつした手にもう一度触れたい。何度も繋いだ手のぬくもりだけが、今もまだ残っている気がして、手のひらをそっと撫でた。

 貴男に、会いたい。会って話がしたい。もう一度、貴男と一緒に旅行したり、テレビを見ながらお話したりしたい。

「あは……」

 そういえば、私がずっとテレビを見ている貴男に話しかけているだけだったね。どうして気づかなかったんだろう。


 私、貴男のことが好き。大好き。貴男のことを、愛してる。こんなにも、愛してる。だから、もしもう一度やり直せるなら、もう間違わないから、最初から愛してるから、だから、もう一度、もう一度だけ許してほしい。もっと、ずっと、一緒に暮らしたい。貴男とずっと、一緒にいたかった。貴男と一緒に、シワシワのおじいちゃんとおばあちゃんになりたかった。


 でももう、だめみたい。だから、ごめんなさい、貴男。そして、愛してた。今もまだ、愛してる。でも、もう私たちが終わりなら、私ももう終わらせるしかないの。生まれ変わって、そしてまた会いに行くから、今度こそ、私間違わないから、だから、愛して……――。




 ゴギリと、鈍い音がした。