私と息子は、実家に帰った。

 私は就職活動を始めたが、フルタイムで働いても手取り十一万円くらいの求人しか見つからず、結婚したときに仕事をやめてしまったことを激しく後悔した。でも、もう遅い。





 そして、一ヵ月がたち、就職先が決まった。私は小さな会社の事務職員になった。日中は母と父に息子を預けて働き、仕事から帰れば家事と息子の世話に明け暮れた。休みなんて、なかった。

 あのとき憧れた、カッコイイ夫と可愛い子供に囲まれた悠々自適な専業主婦生活なんてものはどこにも見つからない。今の私はただのやつれた、障がい児を抱えた派遣のシングルマザーだ。




 結婚したてのときのぷりぷりの肌なんてどこにもなく、砂漠みたいなパサパサの肌。黒くて艶々だった髪も、白髪まじりでぼさぼさだ。化粧やスキンケア用品なんて子持ちの手取り十一万円で賄えるわけもなく、最低限だ。貧乏で、やつれた、小汚い、おばさん。それが今の私。

 鏡に映る自分に問いかける。どうしてこうなった? 私は、どうしたらよかったの? 息子を、産まなければよかった? 息子が健常者なら、夫は私たちを愛してくれた? うん、きっとそう。

 ごめんなさい、ごめんなさい。ユウタ、ちゃんと生んであげられなくてごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。




 ああ、一階で息子が癇癪を起こしている。行かなきゃ。だって、お母さんだもんね。また、殴られる。また、蹴られる。嫌だなぁ。もう、体に傷がないところなんてない。でも、行かなきゃ。だって、お母さんだもんね。

 ごめんなさい、お父さん、お母さん。障がい児の孫の面倒を押し付けてしまって。今行くね。ごめんなさい。親不孝な娘でごめんなさい。