私の夫は崖の下

「あらぁ可愛いわねぇ~~」
 息子は、両親に大人気だった。母としては鼻高々である。

「一週間くらいこっちにいなさいよ」
「もう、お母さんってば」




 ふと、夫がウロウロしているのが目に入った。

「あら、トイレは右奥よ」
「あ、どうも……」
 母に会釈すると、そそくさと消えて行った。


「あの人、はじめて会ったときから全然目を合わせないわねぇ……」
 訝しげに母は呟く。夫のことをよく思っていないようだ。



 結婚の挨拶をしたときも、あまり反応が芳しくなかった。母は独身時代モテたから。社内でエースのイケメンの同世代と結婚した彼女にとって、娘が十四歳も年の離れたおっさんと結婚するなんて、プライドが傷ついたのだろう。


「お母さん。あの人は、優しくていい人よ」
 安心させたくて、今まで彼にしてもらったことを話す。妊娠中にポテトを買ってきてくれたこと。結婚してからずっと専業主婦をさせてくれていること。


 夫のことを語るたびに、胸がじんわりと温かくなっていく。好きなんだって、再確認した。