私の目の前のソファーには、夫が小さくなって座っている。

 こういうことは、これで三度目だ。一度目は、出産の日。二度目は、一ヵ月くらい前、そして今日。

 そのたびに、口論になって(主に私が)ヒートアップしてしまい結局うやむやにされてしまうのだが、今日の私は違う。




「スマホ出して」
「は? やだよ」
 即答だ。やはり、後ろ暗いことがあるのだろう。

「分かった、じゃあ離婚する!」
 とっさに出た言葉だった。

「わ、分かった」
 しかし、夫には効果てきめんだった。汚いスマホケースに包まれたスマホを受け取りながら、私は『離婚』が切り札として使えることを学んだ。





「暗証番号」
「ゼロサンイチゴ」
 言われたとおりにするとログイン出来た。電話帳とLINEの連絡先を上から順に漁っていく。その間、夫は私のことをじっと見ていた。




「返す」
 結局、怪しいものは何も見つからなかった。

「ごめん」
「いいよ」

 私は出産と子育てが不安で、ありもしない夫の浮気を疑ってしまっていたのだ。

 ああ、そうか。それほどまでに、私は夫のことが好きなのか……。