陣痛が始まった。痛みに顔を引きつらせながら、手すりを掴む。

 夫は仕事で少し遅れると言っていた。来ると言っていた時刻はもう、とっくに過ぎ去っている。

 残業が長引いたのかな……? それとも、帰りがけに事故にでもあったのではないか……? 不安で、不安でたまらない。


「お母さん、頑張ってください。ほら、ちゃんと息んで」
 
 だんだん酸素が薄くなっていく。嫌な予感がどんどん雪のように心の中に積もっていって、それを激しい痛みがすべて押し出した。






 何度も気絶と絶叫を繰り返して、気が付いたときにはベッドに横たわって赤子を抱っこさせられていた。

 生まれたばかりの息子は、正直とてもブサイクだった。赤ちゃんって、赤いから赤ちゃんって言うんだなと思いながら、豚と猿を掛け合わせて作ったみたいな生き物を抱きかかえていた。

「可愛い男の子ですよ」
 助産婦がお世辞を言う。

「あの、赤ちゃんって、みんなこうなんですか……?」
 彼女は、頭の上に『?』が浮かんでいると丸わかりな顔をした。

「あの……、すごくブサイクで、このままこの顔だったらと思うと」
「あはっ。結構そう言われるお母さん、多いんですよね。大丈夫ですよ。一ヵ月くらいしたら、ふっくらもちもちの可愛い赤ちゃんの顔になりますから」

 彼女は病室を去っていった。よかった。頑張って痛い思いをして産んだのだから、ちゃんと可愛くなってもらわないと困る。




 私は、となりで眠る息子の小さい手を人差し指で軽くつんつんする。だんごむしみたいに丸まった。かわいい。

 あ、そう言えば。夫はまだかな?