私は、夫は気が弱いから悲しんでいると思っていた。しかし、彼は怒っていたし、そのあとの言葉は私が予想していなかったものだった。



「お前、専業主婦だろ。子供産まなかったら、何すんの?」
「ちょっと待って……」

 彼の目は、どろりと黒く濁っていた。こんな夫、見たことない。

「お前を養ってやってたのは、若かったからだ。みんなに自慢できるからだ。でもお前はもう二十五。クリスマスケーキなら、そろそろ廃棄なんだよ。ガキも産まない年増女、養ってやるメリットこっちにはねぇんだよ」

 そんな……。両頬を温かさが伝う。

「おい!! 聞いてんのか!!!」
「きゃっ!?」

 いきなり胸ぐらを掴まれ、私はただただ唇を震わせることしかできない。

「この寄生虫が。フルタイムで働くか、子供産むかどっちかしろよ」

 今まで聞いたことのない低い声で私の耳元でそう囁くと、夫は私から手を離した。



 ぺたんと、カーペットの上に尻餅をつく。そのまま何分も、私はそこから動くことができなかった。壁にかけられたアナログ時計が時を刻む音だけが、無機質に響いていた。