「うわぁー、アンタ全然変わってない」
 かつて親友だった彼女が、私を見たときの第一声はこれだった。

「美香ちゃんは垢ぬけたね。全然誰だか分らなかったよ」

 五年という月日は、私たちの友情をないことにするには短すぎた。彼女と二時間ほど話していると、まるで高校生の頃に戻ったかのような気持ちになった。




「あ、結婚したんだ」
 美香が、私の左手の薬指にはめられた指輪に気づいた。

「うん」
「ねぇねぇ、旦那さんはどんな人?」
「優しいよ」

 これは嘘ではない。専業主婦させてくれるし。

「へぇーそうなんだぁ。いいなぁ」
 夫のことなんて、ほとんど何もわかっていないのに、羨ましそうな顔をする彼女。

「アタシね、子供産んだんだ」
 一瞬、自慢かと身構える。私はお前よりも、一歩先のステージにいるぞという。

「なのに、彼氏に捨てられちゃったぁ……」
 彼女はそう言って、何もはめられていない自分の左手の薬指をそっと撫でた。

「そう……なんだ」
 何も返す言葉がなくて、私はただ下を向いた。

「シンママはさ、やっぱキツイよ。金ないし。だからさ、アンタにはアタシみたいになってほしくないんだよね。アンタには、幸せになってほしい」
「美香ちゃん……」

 彼女は、高校のときみたいにニヤッと笑う。

「だから、アンタが良さそうな人と結婚してるみたいで安心した。優しいって一番大事だから、うん。旦那さんとお幸せにね!」