除霊先輩の訃報を聞いた翌日。
 私は自宅に引きこもっていました。
 雨戸とカーテンを閉めて、一日中テレビを大音量で流しています。
 食事もストックしてあったカップ麺で済ませて、極力誰とも関わらないようにしています。

 私はお辞儀さんの呪いを目の当たりにしました。
 もはやただのストーカーでないことは明らかです。
 先輩は私が憑かれていると言っていました。
 たったあれだけの会話で、お辞儀さんは先輩に目を付けて殺したのでしょう。

 布団にくるまってテレビに集中していると、スマホの着信音が鳴りました。
 日奈子からです。
 私は応じるか迷いました。
 下手に話すと、お辞儀さんが彼女の危害を加えるかもしれないからです。
 葛藤の末、私は着信を無視することにしました。

 ところが日奈子が何度も連絡をしてきます。
 たぶん私を心配しているのでしょう。
 一人で恐怖に耐え続けるのも限界だったので、私は震える手で通話を開始してしまいました。

「ひ、日奈子……」

『美琴。ずっと連絡取れなかったけど大丈夫?』

「私は平気……日奈子は……?」

『今のところ何もない。それよりさ……』

 日奈子が何かを説明しているのですが、音声が途切れがちで上手く聞こえません。
 代わりにコツコツという音が一定のテンポで鳴っていました。
 何かをぶつけているような音です。
 ぎょっとした私は尋ねます。

「ねえ、日奈子」

『何?』

「今どこにいるの」

『大学だよ。除霊先輩の件で警察がいっぱい来てる。臨時休講ばっかで暇になっちゃった。マスコミもいて大騒ぎだよ』

 日奈子はうんざりした調子で話していますが、私はそれどころではありません。
 コツコツという音はずっと続いています。
 そのテンポがだんだんと速くなっている気がしました。

 私は焦りながらも懸命に伝えます。

「日奈子、すぐにそこから逃げて」

『え? どうしたの』

「あいつがそばにいるの! 早く逃げてっ!」

『ちょっとちょっと、落ち着いて。除霊先輩の件に日奈子は関係ないよ。あれがお辞儀さんの仕業だってまだ決まったわけじゃ――』

 通話が唐突に切れました。
 すぐに連絡を試みますが反応はありません。
 私はスマホを持ったまま固まります。

「日奈子……?」

 私のせいで、日奈子がお辞儀さんの標的になってしまった。
 後悔と絶望が一気に押し寄せて、私は目の前が真っ暗になりました。