夏休みの時期に有休を取った私は、一人で旅行に行きました。
ところが宿泊先のホテルに向かう最中、道に迷ってしまいました。
慣れない土地なのもありますが、私が重度の方向音痴なのが原因です。
地図アプリを使うのもあまり得意ではありません。
道端で途方に暮れていると、こちらを見て微笑む人がいました。
忌村さんです。
別に本人が名乗ったわけではありません。
彼のそばにあるバス停の名前が忌村だったので、私が勝手に呼んでいるだけです。
後で調べたら、そもそもそんなバス停は存在しませんでした。
困り切っていた私は、忌村さんに道を尋ねました。
忌村さんは「こちらです」と歩き出しました。
なんとわざわざ案内してくれるようです。
私はお礼を言ってついていくことにしました。
私と忌村さんは畦道を進んでいきます。
沈黙が気まずかったので、私は適当に世間話を振っていました。
ところが忌村さんは「こちらです」としか言いません。
会話が嫌いなのでしょうか。
この時点で私は頼る人を間違えたと後悔していましたが、引き返すのも疲れるので黙々と歩き続けました。
道は一直線ですし、おそらく方角は合っていると思ったのです。
異変に気付いたのは、歩き始めてから三十分後でした。
周りの景色が一切変わらないのです。
畦道は延々と続いており、未だに終わりが見えませんでした。
私はスマホの地図アプリを開きました。
GPSが壊れたのか、現在地が絶えず瞬間移動していて使い物になりません。
目的地には十五分くらいで着くはずなので、明らかにおかしいです。
忌村さんは迷いのない足取りで進んでいます。
私は何も言い出せず、さらに十分ほど歩きました。
やはり風景は同じで畦道が続きます。
ここで私は、突拍子もない可能性を閃きました。
さりげなく財布を取り出し、小銭を何枚か道に落としました。
数分後、私は道に落ちた小銭を発見しました。
私が落としたのとまったく同じ金額です。
予想が的中しました。
この道はループしているようです。
信じられない事態ですが、落とした小銭が進んだ先で見つかったのですから否定しようがありません。
私はすっかり恐ろしくなり、踵を返して走り出しました。
無我夢中で来た道を戻るうちに、前方に人影が見えてきました。
それは微笑む忌村さんでした。
忌村さんは「こちらです」と言いました。
悲鳴を上げた私は後ずさろうとして、体勢を崩しました。
頭から田んぼに突っ込む寸前、目を閉じました。
倒れた身体に伝わったのは、泥ではなく硬い地面の感触でした。
ゆっくり目を開けると、私は駅前に倒れていました。
行き交う人々がチラチラと見てきます。
私は立ち上がって周囲を見回しました。
ループした畦道も、忌村さんの姿もありません。
あれは白昼夢だったのでしょうか。
何はともあれ、知らない人間に道案内を頼むべきではないと反省しました。
皆様も忌村さんにはご注意ください。
ところが宿泊先のホテルに向かう最中、道に迷ってしまいました。
慣れない土地なのもありますが、私が重度の方向音痴なのが原因です。
地図アプリを使うのもあまり得意ではありません。
道端で途方に暮れていると、こちらを見て微笑む人がいました。
忌村さんです。
別に本人が名乗ったわけではありません。
彼のそばにあるバス停の名前が忌村だったので、私が勝手に呼んでいるだけです。
後で調べたら、そもそもそんなバス停は存在しませんでした。
困り切っていた私は、忌村さんに道を尋ねました。
忌村さんは「こちらです」と歩き出しました。
なんとわざわざ案内してくれるようです。
私はお礼を言ってついていくことにしました。
私と忌村さんは畦道を進んでいきます。
沈黙が気まずかったので、私は適当に世間話を振っていました。
ところが忌村さんは「こちらです」としか言いません。
会話が嫌いなのでしょうか。
この時点で私は頼る人を間違えたと後悔していましたが、引き返すのも疲れるので黙々と歩き続けました。
道は一直線ですし、おそらく方角は合っていると思ったのです。
異変に気付いたのは、歩き始めてから三十分後でした。
周りの景色が一切変わらないのです。
畦道は延々と続いており、未だに終わりが見えませんでした。
私はスマホの地図アプリを開きました。
GPSが壊れたのか、現在地が絶えず瞬間移動していて使い物になりません。
目的地には十五分くらいで着くはずなので、明らかにおかしいです。
忌村さんは迷いのない足取りで進んでいます。
私は何も言い出せず、さらに十分ほど歩きました。
やはり風景は同じで畦道が続きます。
ここで私は、突拍子もない可能性を閃きました。
さりげなく財布を取り出し、小銭を何枚か道に落としました。
数分後、私は道に落ちた小銭を発見しました。
私が落としたのとまったく同じ金額です。
予想が的中しました。
この道はループしているようです。
信じられない事態ですが、落とした小銭が進んだ先で見つかったのですから否定しようがありません。
私はすっかり恐ろしくなり、踵を返して走り出しました。
無我夢中で来た道を戻るうちに、前方に人影が見えてきました。
それは微笑む忌村さんでした。
忌村さんは「こちらです」と言いました。
悲鳴を上げた私は後ずさろうとして、体勢を崩しました。
頭から田んぼに突っ込む寸前、目を閉じました。
倒れた身体に伝わったのは、泥ではなく硬い地面の感触でした。
ゆっくり目を開けると、私は駅前に倒れていました。
行き交う人々がチラチラと見てきます。
私は立ち上がって周囲を見回しました。
ループした畦道も、忌村さんの姿もありません。
あれは白昼夢だったのでしょうか。
何はともあれ、知らない人間に道案内を頼むべきではないと反省しました。
皆様も忌村さんにはご注意ください。

