改変に関する検証では、非常に有意義な結果を得られました。
 満足した私ですが、ふと気付きました。

 「読むと死ぬ話」の効果を打ち消す方法をまだ調べていない、と。
 呪いの殺傷力に注目しすぎて、回避するという考えが頭から抜けていたのです。
 取り扱う上で真っ先に把握しておくべき部分でした。
 己の視野の狭さには大変反省しております。

 さて、今回の検証には「改変版3」を使います。
 適当に雇ったアルバイトに読ませてから、破って燃やすように指示しました。
 着火剤を塗られた「改変版3」はあっさりと燃えて灰になりました。
 そして、アルバイトは半日後に死亡しました。
 読んだ物語を燃やしても、呪いは消えないようです。

 その後も私は、可能な範囲の方法を試しましたが、呪いを消す方法は見つかりませんでした。
 ここで検証を終えてもよかったものの、今回は徹底的に調べることにしました。

 私はインターネットで検索し、有名な霊能者にコンタクトを取りました。
 死の呪いに対抗できるのは、その道のプロしかいないと判断したわけです。
 承諾を得られた私は、待ち合わせの日時に現地へ向かいました。

 ところが、ここで想定外の問題が起きました。
 私の姿を見た途端、件の霊能者が怒鳴ってきたのです。
 しかも近寄らないように警告されてしまいました。
 心霊的な専門家になると、「読むと死ぬ話」が宿す呪いを感じ取れるようです。

 私達は数十メートルほど離れた状態で会話しました。
 事前の連絡通り、呪いの対処を頼んだのですが断られてしまいました。
 その霊能者によると、己の身に余る依頼は受けないそうです。
 代わりに別の霊能者を紹介されたので、私はそちらに会ってみることにしました。

 しかし、次の霊能者に会った際も同じような展開になりました。
 近付くことすら許されず、問答無用で別の霊能者を紹介されたのです。
 そんな事態が立て続けに発生し、私は各地をたらい回しにされる羽目となりました。

 どうやら私が考えている以上に「読むと死ぬ話」は強力な呪具らしいです。
 途中からは直接会うことも敵わず、電話上で依頼を拒絶されました。
 それでも別の霊能者を紹介してもらえただけ、感謝すべきなのかもしれません。

 最初の霊能者に会ってから数週間後。
 最終的に辿り着いたのは、日本一の霊能者である榊羽さんでした。
 榊羽さんは極度の秘密主義で、コンタクトを取るのにかなりの手間を要しましたが、検証の協力者としては最適でしょう。

 事情を聞いた榊羽さんは、まず険しい表情で私に苦言を呈しました。
 主に倫理的な観点から私の検証を非難していました。
 その辺りの内容は一切興味がなかったので、私は率直に死の呪いの回避方法のみ訊きました。

 すると榊羽さんが「読むと死ぬ話」を渡すよう要求しました。
 私は失っても惜しくない「改変版」「改変版2」だけを渡しました。
 榊羽さんは私をさっさと追い出すと、自宅にこもって解呪の研究を開始しました。
 遅くても一か月以内に成果は報告できるそうです。

 その言葉を信じて、私は大人しく待機していました。
 ところが二か月経っても榊羽さんからの連絡はありません。
 別の霊能者に電話したところ、榊羽さんは全身から蛆を溢れさせて死んだそうです。
 曰く、呪いに負けた反動なのだとか。
 榊羽さんの自宅は土砂災害で埋もれてしまい、「改変版」「改変版2」の行方は分からなくなってしまいました。

 今回の検証はここで打ち切りとしました。
 日本一の霊能者が対処できなかったことを踏まえると、「読むと死ぬ話」の呪いを回避するのは不可能なのでしょう。
 それが分かっただけで十分です。