大野さんが亡くなったことで「読むと死ぬ話」の力がおそらく有効であると分かりました。
 次に確かめなければならないのは「要約メモ」の有害性です。

 検証を続けるにあたって、それぞれの話の内容を把握しておくのは必須事項です。
 ただし「現物」を読むのは論外ですし「翻訳版」もリスクが高すぎます。
 そうなると必然的に「要約メモ」に頼らざるをいけないわけです。

 しかし、ここでも問題が立ちはだかります。
 「現物」の呪いが「要約メモ」にも染み付いている可能性です。
 この場合、うっかり読んだ時点で私は死んでしまいます。
 内容の把握をするためには、まず第三者を使って「要約メモ」が安全であることを証明しなければなりません。

 そこで私は、知り合いのフリーターである佐野君に依頼をしました。
 断られると面倒だったので、詳細は説明せずに「私が渡す文書をただ読んでほしい」と伝えました。
 慢性的に金欠の彼は、報酬が貰えると知るとすぐに快諾してくれました。

 まず佐野君には「要約メモ」を渡しました。
 佐野君は長い時間をかけてすべてを読み切りました。
 念のため一週間ほど様子を見ましたが、佐野君は相変わらず元気でした。

 これで「要約メモ」の安全性は証明されました。
 読むと死ぬ呪いも、内容を大きく削って別媒体に移されてしまうと、その恐ろしい力を失うようです。
 私は十五年をかけて集めた物語達をようやく読むことができました。
 感慨深さを覚えつつも、生憎と呆けている暇はありません。
 検証を続行します。

 私は再び佐野君を呼び出すと、今度は「読むと死ぬ話」の「現物」の一つを読ませました。
 メモによると、それはラテン語で記された悲恋の物語でした。
 依頼後、数日ほど待ってみましたが、なんと佐野君は死にませんでした。

 これは予想外の結果です。
 まさか「現物」が偽物だったのでしょうか。

 釈然としないまま、私は佐野君に読んだ感想を求めました。
 すると佐野君は「知らない言葉で書かれていて何もわからなかった」と答えました。
 専門知識のない彼がラテン語を理解できるはずもなく、それは当然の反応でした。

 ここで私は、ある仮説を閃きました。
 もしや「読むと死ぬ話」は、内容を理解することで効果を発揮するのではないか。

 気になった私は同じ悲恋の物語の「翻訳版」を佐野君に読ませました。
 佐野君は内容に感涙して「実写映画化はまだですか」と言いながら帰りました。
 その翌日、佐野君は商業施設の屋上から転落して死にました。
 彼の眼球はどちらも抉られた状態だったそうです。

 仮説は正解でした。
 ただ目を通すのではなく、内容を理解するのが前提だったようです。
 そしてついでに検証した形になりましたが、「翻訳版」には「現物」の呪いが引き継がれていました。
 無害だった「要約メモ」と異なり、内容自体は同一だったのが要因かと思われます。

 今回も実に興味深い結果となりました。
 さらなる検証を続けていきます。