[動画ファイル:20260115_最初の夜.mp4 (破損データ)]
田中による解説:
サーバーに残された最後のファイルだ。破損がひどく、まともに再生できたのは専門家でも数回だけだったという。最も恐ろしいのは、映像そのものではない。健太の悲鳴の後に記録された、「音」だ。以下は、その映像の記録だ。
(子供部屋のベビーモニターの映像。ノイズが激しい)
23:47: 唯が部屋に入り、赤ちゃんを抱き上げる。カメラに背を向け、隅へ移動する。何かを啜るような、湿った不気味な音が響く。
23:52: 健太が部屋に飛び込んでくる。
健太(声): 「唯!何の音だ!?赤ちゃんは!?」
(健太が電気をつける。部屋の隅に、唯が一人でしゃがみ込んでいる)
健太: 「あかちゃんは…?唯、赤ちゃんはどこだ!?」
(唯がゆっくりと立ち上がり、健太の方を向く。口元は赤黒く汚れ、満ち足りた笑顔を浮かべていた)
唯: 「なあに、健ちゃん。やっと、この子が『満たされた』だけよ」
(彼女の手には、黒光りする木の人形が握られている)
健太: 「あ……ああ……」
(健太の絶望的な悲鳴が、部屋に響き渡る。だが、それは一人だけの声ではなかった。
健太の悲鳴に重なるように、甲高い、子供のような、老婆のような、性別のわからない不気味な笑い声が部屋中に反響する。
「ケラケラケラ…」という、人間のものとは思えない嗤い声。
その声に健太の悲鳴はかき消され、カメラが床に叩きつけられて映像が途切れる)

