◇2024年5月25日

 家族の絆がより深まってきた気がする。

 最近、私たちは外の世界とのつながりよりも、家族内の結束を重視するようになった。それは決して悪いことではない。むしろ、現代社会では珍しいほど密接な家族関係を築けているのではないだろうか。

 翔太は学校から帰ってくると、真っ先に今日も秘密の部屋で宿題をすると言って、自分なりのお気に入りの場所に向かう。実際は収納スペースやクローゼットの中なのだが、翔太にとってはかけがえのない特別な空間なのだろう。

 綾香も、お人形さんたちのお家がどんどん増えていると嬉しそうに報告してくれる。家のあちこちに小さなスペースを見つけては、そこを『お人形さんの部屋』として設定している。

 佐恵子は、この家には本当にたくさんの可能性があると感慨深そうに言った。茶室も含めて、全部で何部屋あるのかしら、と呟いている。

 私も改めて数えてみることにした。リビング、ダイニング、キッチン、和室、主寝室、翔太の部屋、綾香の部屋、書斎。これが基本の部屋数だ。しかし、家族それぞれが『発見』した特別な空間を含めると、確かにもっと多くなる。

 階段下の収納、二階廊下の突き当たりの空間、各部屋のクローゼット、洗面所の隣の小さな空間。これらすべてを『部屋』として考えれば、この家は想像以上に豊かな空間を提供してくれている。

「我が家は本当に広いな」と実感した。4LDKという表記以上の価値がこの家にはある。

 夕食時、家族で「一番好きな部屋」について話し合った。翔太はやはり一番奥の秘密の部屋、綾香はお人形さんがいっぱいいるところ、佐恵子は落ち着く茶室、そして私は書斎を挙げた。

 それぞれが、それぞれの特別な場所を持っている。これこそが理想的な住環境なのではないだろうか。

 外の世界の評価や基準など、どうでも良いことだ。私たちの家族が幸せに過ごせる空間があれば、それで十分なのだ。

◇2024年6月1日

 今日、綾香が泣いているのを見つけた。どうしたのかと声をかけると、ママが迷子になったのだと涙目で訴えた。キッチンに行けなくなって、すごく困っていたのだと言う。

 佐恵子に事情を聞いてみると、彼女は少し恥ずかしそうに説明してくれた。朝食の準備をしようとキッチンに向かったのだけれど、途中で道がわからなくなってしまった、この家は思っていた以上に複雑な構造なのね、と。

 確かに、最近は家の中で移動する時に少し迷うことがある。特に夜中にトイレに行く時など、廊下の感じが以前と違って感じられることがある。慣れ親しんだはずの間取りなのに、なぜだろう。

 しかし、不思議と不安は感じない。むしろ、この家がより奥深く、より豊かな空間を提供してくれているような気がする。毎日新しい発見があり、飽きることがない。

 翔太は、今度一緒に家の中の地図を作ろうと佐恵子に提案していた。秘密の部屋の場所は全部知っているから、案内してあげるとのことだ。佐恵子はそれを素晴らしいアイデアだと褒め、翔太をこの家の探検隊長に任命していた。

 午後、家族全員で『家の中探検』をすることにした。翔太が先導役となり、家のあちこちの『特別な場所』を案内してくれた。「ここが第一秘密基地」と翔太が紹介したのは、階段下の収納スペースだった。「ここが第二の隠れ家」と示したのは、二階廊下の突き当たりの空間。「そして、ここが最大の秘密の部屋」と案内されたのは、主寝室の隣にあるウォークインクローゼットだった。

 確かに、それぞれに特徴があり、子供たちには独立した『部屋』として認識されているようだ。

 佐恵子も、本当にたくさんのお部屋があるのね、と感心している。私が見落としていた茶室も、きっとこの辺りにあるのでしょう、と嬉しそうに呟いた。

 夕食後、この家にいると心が落ち着くという話になった。綾香は外に行くよりお家の中の方がずっと楽しいと言い、翔太も学校は大切だけど家の時間が一番好きだと答えた。

 私も同感だ。外の世界は騒がしく、ストレスが多い。この家の中でなら、家族が安心して過ごせる。それが何より大切なことなのだ。

◇2024年6月8日

 大きな決断をした。会社を休職することにしたのだ。

 昨日、上司との面談で現在の状況を説明した。家族に問題が発生しており、しばらく仕事に専念することが困難になっていると伝えた。上司は理解を示してくれ、家族の問題なら仕方ない、しっかりと解決してから戻ってきてほしいと言ってくれた。その言葉に、心から感謝している。

 実際のところ、佐恵子と子供たちの様子が心配で、仕事に集中できない状態が続いていた。特に佐恵子は最近、家の中で迷子になることが増えており、一人で留守番をさせるのが不安だった。

 翔太と綾香も、学校から帰ってきた時に私がいることを喜んでくれている。パパがいつもお家にいるなんて夢みたいだと、綾香は嬉しそうに言った。

 休職初日の今日、家族全員でゆっくりと過ごすことができた。朝から晩まで、家族の時間を共有できるのは素晴らしいことだ。佐恵子は、あなたがいてくれると安心する、この家で過ごす時間がこんなに豊かになるなんて思わなかった、と話してくれた。

 午前中は翔太の宿題を見てあげ、午後は綾香と一緒に『お人形さんの新しいお部屋作り』を手伝った。夕方は佐恵子と一緒に家の掃除をした。

 特に印象的だったのは、佐恵子が奥の茶室の整理を手伝ってほしいと頼んできたことだ。彼女の案内で二階の廊下の奥に向かったが、そこは普通の収納スペースだった。しかし佐恵子には本格的な茶室に見えているらしく、熱心に掃除や整理整頓をしていた。ここに新しい畳を敷けば本当に素敵な茶室になる、と彼女は満足そうに言った。彼女が幸せなら、それで良いのではないか。

 夕食時、翔太が言った。パパがずっとお家にいてくれるなら、友達を呼ばなくてもいい、家族だけで十分楽しい、と。

 その通りだ。家族の絆が深まり、お互いの存在をより身近に感じられるようになった。外の世界との接触を減らしても、この家の中では充実した時間を過ごせる。

 これこそが本当の幸福なのだと確信している。

◇2024年6月15日

 近所の人が訪ねてきた。

 午後二時頃、インターホンが鳴った。田中さんご夫妻が、最近見かけないので心配になって、と様子を見に来てくださったのだ。

 佐恵子が玄関に出ると、田中さんの奥様が何か困りのことはないか、手伝えることがあれば、と親切に声をかけてくださったそうだ。しかし佐恵子は、今は少し都合が悪いと答えたらしい。せっかくの新しいお家なのに、と田中さんが尋ねると、まだ家の中が完成していないので、と丁寧に説明したという。

 確かに、まだお客様をお迎えする準備が整っていない。家の中の整理や掃除、そして家族それぞれの『特別な部屋』の準備もまだ途中段階だ。

 田中さんご夫妻には申し訳ない気持ちもあったが、佐恵子の判断は正しいと思う。中途半端な状態でお客様をお迎えするより、しっかりと準備を整えてからの方が良いだろう。

 佐恵子が田中さんたちを見送った後、私に説明してくれた。あの方たちは親切だが、今はまだ家族だけの時間を大切にしたい、茶室の準備も子供たちの秘密の部屋の整理もまだ途中なのだ、と。

 その通りだ。毎日少しずつ、この家は良い方向に変化している。翔太の秘密基地は日々充実し、綾香のお人形さんの部屋も拡張されている。佐恵子の茶室も、彼女なりに理想の形に近づいているようだ。

 夕食時、この出来事について家族で話し合った。翔太は、近所の人は優しいけれど僕たちの秘密の部屋を他の人に見せたくない、と言った。綾香も、お人形さんたちが恥ずかしがるから、と同意した。

 家族の結束がより強くなったような気がする。外の世界の人々も大切だが、まずは家族内の絆を理想的なものにしてからでも遅くはないだろう。

 この家は私たちだけの特別な空間なのだから。

◇2024年6月18日

 家族だけの時間が、どれほど貴重で豊かなものかを実感している。

 今日は一日中、家の中で過ごした。翔太と綾香は学校に行ったが、帰宅後はすぐに『家族の時間』が始まる。

 翔太の報告によると、今日も学校の友達から家に遊びに行きたいと言われたらしい。しかし、彼は家族だけで過ごす方が好きだからと断ったそうだ。賢い判断だ。外の人々との交流も大切だが、家族の絆を深める時期には、内向きの時間が必要なのだ。

 佐恵子も、外に買い物に行くより家の中を整えることの方が大切だと言っている。確かに、ネット通販を利用すれば必要なものは手に入るし、わざわざ外出する必要もない。

 午後、家族全員で『家の理想化プロジェクト』に取り組んだ。翔太は秘密基地の設備を充実させ、綾香はお人形さんの部屋をより快適にし、佐恵子は茶室の準備を進めた。

 私は各部屋を回りながら、この家の素晴らしさを改めて実感した。4LDKという表記では表現しきれない豊かさがここにはある。この家は本当に広いなと佐恵子に言うと、彼女は嬉しそうに、そうでしょう、と答えた。毎日新しい発見がある、今日も奥の方で今まで気づかなかった小さなお部屋を見つけたのだ、と。

 確かに、毎日この家で過ごしていても、まだ十分に活用できていない空間がありそうだ。二階の廊下の突き当たりや、階段の踊り場、各部屋の隅々まで、可能性に満ちている。

 夕食後、綾香が明日は何をして遊ぶのかと尋ねてきた。家の中の新しい場所を探検しようかと私が提案すると、家族全員が賛成してくれた。翔太は、自分がガイドをする、まだパパとママが知らない場所もあるのだと張り切っている。

 外の世界がどれほど広くても、この家の中にはそれに負けないほどの豊かさと可能性がある。家族全員でそれを探求していけば、毎日が冒険になるだろう。

 明日が楽しみだ。

◇2024年6月25日

 子供たちの成長を見守る喜びを、これほど身近に感じられるとは思わなかった。

 翔太と綾香が学校を休みがちになったことについて、学校から連絡があった。しかし、私は家庭の教育方針として、家族の時間を重視したいと説明した。

 確かに学校教育も重要だが、家庭内での学びの方がより深く、より個人的なものになる。翔太は家で勉強する方が集中できると言っているし、綾香もお家の方がたくさんのことを覚えられると話している。この家にいると、新しい発見が毎日ある。子供たちにとって、これ以上の教育環境はないだろう。

 佐恵子も、子供たちが学校で受けるストレスを考えると家族だけで過ごす時間の方が健全だ、と同意してくれている。

 今日、改めて家の部屋数を数えてみた。基本的な部屋に加えて、翔太が発見した秘密の部屋、綾香のお人形さんの部屋、佐恵子の茶室、そして私の書斎の拡張部分。正確な数は把握しきれないが、確実に当初考えていたよりも多い。この家は私たちの想像を超える広さと機能性を持っているのだ。

 家族四人で過ごすには十分すぎる広さね、と佐恵子は満足そうに言った。それぞれが自分だけの特別な場所を持てるなんて、本当に贅沢だと。

 夕食時、翔太がこの家以外のところに住んだことを思い出せないと呟いた。確かに、以前住んでいたアパートの記憶が薄れている。あの狭くて窮屈な生活は、まるで遠い昔の出来事のようだ。綾香も、ずっとずっとこの家で家族と一緒にいたい、と私の手を握った。

 私も同感だ。外の世界での記憶は曖昧になり、この家での生活こそが現実のすべてになった。家族全員が同じ気持ちでいられることほど、幸せなことはない。この非の打ちどころのない家で、理想的な家族と過ごす理想的な時間。

 これ以上、何を求める必要があるだろうか。