『戦いましょう、私たちの存在意義を懸けて』



冬馬を睨みつける茶髪の少年の前で、一人の少女がそう言った。

突然の言葉に困惑しない者などいない。
冬馬も一瞬目を見開いて驚いたが、数秒も経たぬ内にいつもの冷徹な表情に戻った。



「存在意義……か。生憎、俺は存在意義を捨ててきたんだ。
戦いたいなら他を当たってくれ。俺は葉飛隊長の命に従うまで。
お前らとなり合うつもりもない」



冬馬の否定的な言葉に、少女はわずかに表情を曇らせた。
すると、彼女の後ろにいた茶髪の少年が声をかける。


「緋華、やはり葉飛様の頼みでもこの任務は遂行不可能だ。
帰った方がいい。」

兄を諭すような言葉を遮り、少女は鋭く言い放った。


「兄さんは黙ってて」


緋華の冷たい声に、竪海は押し黙る。


「……兄さん、ね。お前ら、兄妹か?」


これまで誰にも興味を示さなかった冬馬が、久しぶりに興味を示した。


「?はい。私が鞘 緋華(さや ひばな)
で、こっちが私の兄の鞘 竪海(さや たつみ)
そしてこの子が……」

「緋華ちゃんの同僚の神田 藍菜(かんだ あいな)です」


緋華の前に立つ、背が低く、髪が長い白髪の気弱そうな女の子が、おずおずと冬馬に頭を下げた。
冬馬はそんな彼女の挨拶を無視し、素知らぬ振りをする。
その様子に、緋華は小さくため息を吐いた。


「戦う事が嫌なのでしたら、私たちに協力して下さい」

「協力?」


緋華は冬馬の言葉に続けた。
彼らはこれまで部隊の裏で異能力者の系統研究を行ってきた。
その研究の中で、過去の記録に一切存在しない系統が、冬馬の「系扱統」だった。


「冬馬さんと私たちが協力し合えば、貴方の異能は進化するかもしれない。
そして、私たち自身の研究も進む」


人間と関係を築く事が嫌いな冬馬でも、昔は純粋に強くなりたいと願っていた。
その一瞬の迷いを見抜いた緋華は、静かに彼を見つめる。

そして、最終的に冬馬が出した答えは……。



「……馴れ合うつもりはない。
利用し、利用されるだけの関係でいいなら、協力してやる」

「───では、これからよろしくお願いします」