波嚙み

 凪は生前、僕に手紙を送ってくれた。恐らく遺書だろう。一度読んだだけで、五年間も封筒にしまったままだ。
 「夕陽綺麗だね」
 僕は未鈴に言った。水平線に太陽が沈んでいく。空はオレンジに染まり、まるで僕らの幸せを祝福してくれているかのようだった。
 手紙をそっと海へ投げる。その手紙は荒波に喰われ、行方がわからなくなってしまった。
 僕らはもう、幸せだ。