波嚙み

 あの言葉を聞いてから、あの女性を見ても無視し続けてきた。それでもあの女性は私の目の前に現れ続けた。私は中学生のときによく見ていた匿名掲示板上で相談することにした。

 スレッド:【怪談】女の幽霊が見えるようになった【2020/06】
1 :名無しの霊感さん:2020/06/12(金) 22:41:03.45 ID:Abc123xy0
帰り道とかで女性を見るようになった。こっちを見てる。
インターホン鳴らされたり、ドア叩かれたりする。
オカ板の人お願い…
2 :名無しのお話さん:2020/06/12(金) 22:42:55.61 ID:Jkl456rt0
釣り乙
3 :名無しのほほさん:2020/06/12(金) 22:43:12.17 ID:Yui789mn0
kwsk
4 :名無しの霊感さん:2020/06/12(金) 22:44:30.14 ID:Abc123xy0
>>3
私の周りの人は見えないって言うんだけど…。無視してればいいって言われた。
5 :名無しのおばさん:2020/06/12(金) 22:46:21.77 ID:Ope222we0
洒落になってねえな…
7 :名無しの間違いたち:2020/06/12(金) 22:49:09.10 ID:Xrt88
お祓いできるよ。
8 :名無しの霊感さん:2020/06/12(金) 22:50:45.62 ID:Abc123xy0
>>7
お祓いしてほしいです。
10 :名無しのゆういさん:2020/06/12(金) 22:53:00.61 ID:Rrr019kj0
お祓いの方法教えてあげて
11 :名無しの間違いたち:2020/06/12(金) 22:54:36.66 ID:Xrt88
電気消して、ろうそくある?
13 :名無しの霊感さん:2020/06/12(金) 22:58:21.43 ID:Abc123xy0
はい。あります。
15 :名無しのはいさし:2020/06/12(金) 23:00:41.23 ID:Ggg111op0
うお、なんか霊媒師おるwww
16 :名無しのれーささん:2020/06/12(金) 23:02:28.00 ID:Zzz567aa0
なんかかっこよくて草
17 :名無しの間違いたち:2020/06/12(金) 23:03:66.11 ID:Xrt88
そしたら舌に針を刺して、血をろうそくの炎の中に落として。
18 :名無しの霊感さん:2020/06/12(金) 23:05:11.79 ID:Abc123xy0
痛いけど…できました。
17 :名無しの間違いたち:2020/06/12(金) 23:08:38.41 ID:Xrt88
そしたら鏡に向かって「ハメイワガノドヲトオレ」って言って。

 最初は信じていなかったが、その日からその女性を見ることはなくなった。だが、周りから冷たい視線を感じるようになった。
 「昨日の課題、難しくなかった?」
 私が友人にそう問いかけると、怪訝な顔をされ、まるで聞こえなかったかのように携帯電話を操作し続けた。私の声の小ささが原因だと思い、今度ははっきりと口にする。しかし、返事はない。返事を待つ私に「じゃあね」と言って離れていく友人を私は目で追う。

 違和感を覚えたのは大学だけではなかった。洗面台の前に立ち、私はいつも通り顔を洗っていた。
 「あ~疲れた」
 気の抜けた声でそう呟いた。鏡をにらみつけ、じっと見続けた。その鏡の中の唇は音とまるで合っていなかったのだ。私の口とは動きが遅れ、もう一人の私は笑っているようにも見えた。最近の睡眠不足のせいだと思い、特に気に留めていなかった。
 私は本棚に置かれた写真立てを眺めた。私の両親と弟がその写真の中にいる。私がここ東京に来ることを決めたのは、高校に入学したときのことだ。
 東京には何でも最先端のものがある。私は何でも一番を取ることにこだわっていた。学校の定期試験では毎回満点を取って、クラス一位を取っていた。部活動でも県大会一位を取った。両親も、私がいつも一番だと褒めてくれた。一番でなければ意味がない。喉を震わせて呟く。だがその声は、自分の耳にしか響かなかった。眠れない夜もあった。一番を取れないことへの不安が私を毎晩襲った。
 弘樹くんの恋人になりたい。
 私のなかで、彼に対する恋愛感情はどんどん高ぶっていった。彼がどんな恋愛をして、今も誰を想っているのかはわからない。それでも彼が欲しかった。
 気づくと夜が明けていた。
 「弘樹くん、おはようございます」
 大学で見つけた彼に向かって挨拶をすると、彼は私をにらんだ。
 「なんだよ、来るなよ」
 彼はそう言って、その場を走り去ってしまった。私にはわからなかった。どうして彼が私にそんな言葉を口にしたのか。
 「ちょっと、凪ちゃん」
 その場に立ち尽くす私に、駿先輩が声をかけてくれた。
 「あの……弘樹くん……」
 「いや~、凪ちゃんにあんなこと言われちゃったらね~。あの動画、俺も見たけどさすがに言いすぎだよ」
 そう言って駿先輩は携帯電話の画面を見せた。
 『【内部告発】大学生の闇垢』
 そう書かれたSNSのアカウントを見る。私は急いでそのアカウント名を検索した。
 「何これ……」
 そのアカウントの投稿に載っていたのは、私だった。私がひたすら弘樹くんの悪口を言い続けるというものだった。ありえない。こんなことを言った自覚は更々なかった。周りからの冷たい視線は更に増し、私の居場所はなくなっていった。
 私から友人が離れていく。
 私から先輩が離れていく。
 私から弘樹くんが離れていく。
 私から自分が離れていく。
 この世界から離れていく。