波嚙み

 「●●●●●●●●●●●●」が制作した『ミライへの羅針盤』(二〇二四年一二月二三日放送)の心理学者・西川に行った、インタビューの音声の文字起こしの一部
 ファイル名【mirai_2024.12.12.txt】
 いや~、ご無沙汰してます。あれはたしか五年前でしたっけ? そうですよね。「いじめ」の話をしたのを覚えてます。
 今ですか? 今は教授やりながら、こういうAIの研究もしてるんですよ。ほら、うちの学生もみんな使ってるんですよね。レポートとか小テストとかにも使われちゃって、たまったもんじゃないですよ。
 すみません、話が逸れてしまいました。本題に戻りましょうか。前回のいじめとは違うから、少し気が楽です。
 AIに感情を持つときが訪れるかどうかというテーマですよね。SF映画でもありますよね、そういうの。人間の心理を同時に研究していた僕から言わせてみると、AIが感情を持つ日は来ないと思います。
 AIって色んなデータを取り入れられてるわけですけど、感情は単なる論理的な思考やデータ処理の産物ではないんですよ。生物学的な身体、ホルモン、神経伝達物質といった複雑な要素が絡み合った、生命の根源的な現象です。怖い、嬉しい、悲しいといった感情は、生存や社会生活の経験を通じて形成されるもので、今のAIのアルゴリズムとは根本的に違うんです。
 でも、AIが「感情のように見える振る舞い」をすることは可能だと思います。例えば、AIは人間の話し方や表情を分析し、それに合わせて適切な反応を返すことができます。我々は共感しているように思うかもしれないけど、それは膨大なデータを学習しただけなんです。そこに「心」とか「意識」は存在しません。
 そのAIに自分の脳と同じデータを取り込んだら、自分のクローンができるって? 面白いですね、その考え。でもそれも先ほど言ったように、自分の脳みそとは全く構造が違いますから、難しいでしょうね。もし感情を持ったら、AIからの逆襲とかあり得るかもですね。これは冗談です。
 あ~、ディープフェイクでしたよね。有名人の顔に自分の顔を入れてみるとかね。動物園からライオンが脱走したとかいうデマが広まりましたね。近々、AIが作る画像とか動画に騙されてしまう未来が訪れそうですね。すでに僕も騙されそうですし。ほら、四年前にああいうこともあって……。今後、AIはさらに高度な感情の模倣能力を身につけていくと思います。でもAIがどれだけ綺麗に絵を描いたとしても、美しいとは思わないでしょうね。
 ところで倉島さんはなんでこのお仕事を?
 へぇ~、オカルトに興味があったんですね。オカルト好きならこの本とかおすすめですよ。僕が涎名義で書いた小説なんですけどね。別に売りつけてるわけじゃないですよ。「夢日記」にまつわるホラー小説です。あ、もう読んでましたか? ありがとうございます。
 じゃあ、本日はこんなところで。また会える日を楽しみにしてますね。