クロとシロと、時々ギン

 冗談交じりに私がそう言うと、シロ先輩は、苦笑いを浮かべる。

「安心しろ。もう次の勤め先は決まっている」
「えっ!  本当ですか!? いつの間に転職活動してたんですか?」

 シロ先輩は、私の反応を見て得意げな顔をする。

「お前が知らないだけでやってたぞ。まぁ、ちょっとツテを頼ったんだけどな」

 シロ先輩のツテとは、大学時代の友人とかだろうか。

「それで、どこなんですか、次の仕事場は?」
「それは……」

 シロ先輩は、そこで言葉を切って、私を見つめる。そして、私の耳元に口を寄せると、囁くように告げる。

「三嶋さんのところ」
「……へ?」

 私は、予想外の言葉に唖然として固まる。シロ先輩は、そんな私の反応を見て楽しげな笑顔を見せる。

「俺、あそこで働くことになったから」

 そう言ってシロ先輩は背後にチラリと視線を向けた。視線の先には夕闇の中煌々と光を放つ大きな建物がある。

 シロ先輩の言葉の意味を理解して、私は、「えー!」と大きな声を上げた。シロ先輩は、そんな私の様子を見て可笑しそうに笑っている。

「先輩、ホテルマンになるんですか!?」
「まぁ、ホテルマンというか、ウェディングプランナーだ。お前たちとウェディングの仕事をしているうちに興味が湧いてさ。ダメ元で三島さんに相談したら、うまいこと話が進んだんだ」

 シロ先輩の話に、私は、ぽかんとするしかない。まさか、シロ先輩がウェディング関係の仕事に就くなんて思いもしなかった。考えれば考えるほど意外な仕事に思える。

「でも、大丈夫なんですか? 接客業でしょう。シロ先輩、無愛想だし……」

 私の心配をよそに、シロ先輩は、自信満々に言い切る。

「そこは問題ない。俺は、営業スマイルの作り方を知ってるからな」

 シロ先輩のその言い方に思わず吹き出してしまう。

 ああ、これは、何を言っても無駄だ。

 私は、シロ先輩の決意の硬さを感じて、それ以上否定するのはやめることにした。それに、きっとこの人は、上手くやるのだろう。これまでだってそうだったのだ。

「まぁ、何事もやってみないとですね。新しい環境に慣れるまでは大変かもしれませんけど、明るく元気に過ごしていれば、物事はいい方向に運ぶって言いますから。二人で頑張っていきましょう!」

 空に浮かぶ月を見上げる。優しい輝きを放つあの月のように、私はシロ先輩のことを信じて、見守っていこう。そう思い、傍のシロ先輩へ微笑むと、シロ先輩は、何故かとても驚いたような顔で私を見下ろしていた。