クロとシロと、時々ギン

 しばらく互いに無言のまま抱き合っていたが、やがてどちらともなくそっと離れる。それから、シロ先輩は、私を見つめて、柔らかく微笑んだ。

 その表情に釘付けになっていると、シロ先輩の顔が徐々に近づいてくる。私は、ゆっくりと瞼を閉じる。心臓が壊れそうなほどにドキドキしていた。

 唇に柔らかなものが触れる。軽く触れただけですぐに離れたそれに名残惜しさを感じながらも、私は、目を開く。目の前に映るのは、シロ先輩の顔。私たちはしばらくの間見つめ合う。そして――

 もう一度キスをした。今度は、長く深い口づけを交わす。これまでで一番幸せな瞬間だった。

 幸福感に満たされながら、私は、思う。きっとこれからも色々なことがあるだろう。辛いことや苦しいこと、悲しいこともたくさんあると思う。それでも、この人と一緒なら乗り越えていけるはずだ。私は、シロ先輩のことが大好きだ。だから、シロ先輩と一緒に生きていきたい。これからもずっと。そう強く思った。

 まさか、恋愛や結婚に然程興味のなかった私が、こうもあっさり結婚を決断してしまうなんて思いもしなかった。これまでの生活が大きく変わってしまうだろうに、不安も戸惑いもなく、すんなりと頷くことができたのは、相手がシロ先輩だからだろうか。それとも、これが運命というやつなのだろうか。

 いずれにしても、私はこの決断をこれから先も後悔しないだろうと確信を持って言える。それほどまでに幸せを感じていた。

 シロ先輩に体を寄せ、傍の温もりを感じながら、何気なく視線を上げると、シロ先輩もこちらを見ていて目が合った。シロ先輩は、少し照れ臭そうにしながらも、とても幸せそうな顔をしている。私も同じ顔をしているに違いない。

 私たちは、互いの瞳の中に自身の姿を見つけて、それから、自然と笑い合った。

「それにしても、唐突なプロポーズでしたね」

 シロ先輩は、私の言葉を聞いて、バツが悪そうな表情を浮かべる。

「それに関しては俺自身も驚いている」

 私は、シロ先輩の反応を見て、小さく吹き出した。シロ先輩は、そんな私の反応に不満そうな顔をする。

「お前はまだそんな感じじゃなかっただろうけど、実は、俺は、結構前から考えてはいた」

 シロ先輩の言葉に、私は目を見張る。

 私だってシロ先輩との将来について、考えたことがないわけではない。ただ、それは、漠然としたものに過ぎなかった。シロ先輩が言うように、私は、まだ、そんな感じじゃなかったのだと思う。