クロとシロと、時々ギン

 白谷吟は、そこまで一気にまくしたてると、もう一度深々と頭を下げてから言った。

 私は、ハッとして我に帰る。そして、咄嵯に言葉を探したが、適切な台詞が思い浮かばず、結局曖昧な返事しかできなかった。

「あの……いえ、大丈夫ですよ」

 私の声を聞いた白谷吟は、ほっとしたような顔で、胸を撫で下ろすと、ようやく笑顔を見せてくれた。それから、改まった口調で言った。それは、まるで重大な秘密を打ち明けるような響きだった。

「僕が言うことじゃないけど、史郎は君のことをちゃんと考えているから。それだけは信じて待ってやって欲しい」

 白谷吟の有無を言わせぬ圧に、私は、小さくうなずく。それから、彼は、もう一度だけ念を押すように私の瞳を真っ直ぐに見据えると、最後にニッコリと微笑んでみせた。

 ああ、この人は、どうしてこんなにシロ先輩のことがわかるのだろう。私は、目の前の男の笑顔を見ながらそう思った。

 白谷吟は、そのまま踵を返すと、ドアの外へ出て行った。白谷吟の出て行ったドアと、控室に残った私を、不思議そうな顔で交互に見比べていた萌乃に、苦笑混じりに話しかける。

「白谷先輩には敵わないわね」

 萌乃は、私の言葉を聞くと、一瞬キョトンとしていたが、すぐに納得したように大きく何度も首を縦に振った。

「白谷さんは、本当になんでもわかっちゃう人ですからね。素敵ですよね」

 萌乃はしみじみと言った。

 私は、萌乃の言葉に曖昧にうなずきながら、もらったチョコレートを口に放り込んだ。甘い味が口いっぱいに広がる。疲れた身体に甘さが染みる気がした。さっきまでとは打って変わって、心が軽い。萌乃のチョコレートには、魔法のような効果があったのだろうか。

 私は、ソワソワとドアの向こうを気にする萌乃の視線に全く気づいていなかったことに、この時初めて気づいた。

「萌ちゃん。白谷先輩と帰りたいよね? ごめんね。気がつかなくて。今日は、もう帰っていいよ」

 私がそう声をかけると、萌乃は驚いたように目を丸くして、それから嬉しそうに頬を緩めた。萌乃は慌ただしく荷物をまとめると、バタバタと控室を後にした。

 萌乃が帰った後、ホテルのスタッフの手を借りてウェディングドレスを脱ぐと、急いで着替えを済ませた。スタッフに礼を言い、控室のドアを開けると、ちょうどそこにシロ先輩が立っていた。

 私は、びっくりして思わず立ち止まる。シロ先輩は、私の姿を上から下へとじっくり観察すると、満足げに微笑んだ。