クロとシロと、時々ギン

 由香里は、私の顔をじっと見つめていた。その瞳には決意の色がはっきりと見えた。私は、何も言わずに頷く。由香里は満足げに頷き返すと、またいつもの顔に戻って、私の背中をバシッと叩いた。

「さーて! 帰って、未来の旦那様を探そうかな 」

 そう言うと、由香里は踵を返して帰って行った。

 その後ろ姿を見送って、一息つくと同時に、背後に人の気配を感じた。振り返ると、そこにはシロ先輩が立っていた。私と目が合うと、シロ先輩はバツが悪そうに微笑んで言う。

「お疲れ」

 その声を聞いた瞬間、私の中で張り詰めていたものが一気に解けていくような気がした。安堵と疲労がドッと押し寄せてくる。

「シロ先輩。……どうでした? その……」

 私の声は少し震えた。自分でも分かるくらいに緊張していたのだと思う。そんな私の様子に気づいているのかいないのか、シロ先輩は淡々と答える。

「お前、セリフとちっただろ。ちゃんと練習しとけよ。クライアントに迷惑かけんな」

 そう言われて、私はガクッとうなだれた。プロジェクトの責任者としては、当然の叱責だ。

「……すみません」

 シロ先輩の口調からは、感情が読み取れない。怒っているのか呆れているのだろうか。どちらにせよ、私はしゅんとして謝るしかなかった。

 そんな私を見て、シロ先輩は苦笑すると、責任者の顔から、いつものシロ先輩の顔になり、私の頭にポンと手を置く。私は、頭に置かれた手に甘えるようにして目を閉じた。

 しばらく、そのままの状態でいたが、不意に遠くの方から私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
私はハッとして目を開ける。見ると、三嶋さんがこちらに向かって手を振っていた。ペコリとお辞儀をしようとして、いつの間にか頭から外されたシロ先輩の手に気がつく。名残惜しく思いながらも、私は、慌てて姿勢を正した。

 三嶋さんがニコニコしながら近づいて来る。少し離れたところでは白谷吟がゲストたちに囲まれていた。みんな口々に白谷吟を褒め称えていたが、当人は困った様子で曖昧な笑みを浮かべながら対応していた。しかし、三嶋さんの接近に気づくと、助かったというようにホッとした表情を浮かべ、足早にこちらへやって来た。

「いちゃいちゃするのは、二人っきりの時だけにしろよ」

 白谷吟が、シロ先輩の肩に手を置いて揶揄うように言う。私は、恥ずかしくて真っ赤になる。シロ先輩は白谷吟を睨む。

「っるせ」

 白谷吟は楽しげに笑いながら、こちらを見た。私は、照れて視線を逸らす。