クロとシロと、時々ギン

 今日の私の役目は、ブライダルフェアの花嫁役だった。この企画話が持ち上がった時に、新郎新婦役は我が社にと式場側から打診があったのだ。式場スタッフでは、結婚式に慣れすぎて、新郎新婦の初々しさが出ないという理由らしい。

 そこで、誰がいいかという話になった時、新郎役は満場一致で白谷吟ということになった。社内外で人気の白谷吟が引き受けるとなると、花嫁役は誰がやっても火種を生むことは分かりきっていた。そのため、相手役は白谷吟自身に指名させることになった。

 そして、白羽の矢がたったのが私ということだ。とんでもない役を押し付けられて、胃が痛くなったが、最善の選択であることも理解出来た。私とシロ先輩が付き合っていることを知っている白谷吟にとっては、誰かを選ぶよりも私が一番面倒ごとが少ないからだ。

 私は、内心ため息を吐きつつも、これも仕事だと割り切って引き受けることにした。それに、挙式と言ってもデモンストレーションであって、実際に結婚式をするわけじゃないんだからと高を括っていた。

 しかし、蓋を開けてみれば、誓いの言葉すらまともに言えず、危うくイベントを台無しにするところだったのだけれど……。

 私は、改めて自分の着ている純白のウェディングドレスを見下ろす。

「ちょっとセリフ、とちっちゃったけどね」

 私が苦笑しながら言うと、由香里は首を横に振って言う。

「全然、問題ないよ。あれはあれで面白かったし。それに、やっぱり、誓いの言葉は本番まで取っておいた方がいいしね」
「本番ねぇ……」

 私は、思わず人ごみの中にシロ先輩の姿を探す。シロ先輩は見つからない。きっと、どこかで片付けか打合せをしているのだろう。

 私は、そっと目を伏せて息をつく。そのため息を由香里が拾い、茶化すように言う。

「ちょっと。その姿でため息つくの、やめてよね。せっかく、結婚式良いなぁ、私も早く決めたいなぁって思ってたのに、台無しじゃない」

 そう言って、由香里はケラケラと笑う。

 私は慌てて顔を上げた。そんなつもりはなかったのだが、確かに今は良くない。まだ仕事中なのだからと自分に言い聞かせて気を引き締めた。私は、精一杯幸せそうな笑顔を作ってみる。

「どう? これで幸せいっぱいの花嫁らしく見える?」
「そうね。まあ、及第点かな」

 由香里はニヤリと笑って言った。それから、急に真面目な表情になった。

「私、頑張るわ」

 私は一瞬キョトンとしたが、すぐに彼女の言葉の意味を理解した。