クロとシロと、時々ギン

「でも、何かが引っかかって。何か忘れていることがある気がして。だから、昨日あの神社に行った」

 私は、ハッとしてシロ先輩の顔を見る。シロ先輩は、少し躊躇うような様子を見せながら、ゆっくりと話し始めた。

「俺さ、あまり子供の頃の記憶がないんだよ。というか、自分の記憶に自信が持てないっていうか」

 シロ先輩は、そこで言葉を切って、コーヒーに口をつける。私はようやく声を出すことができた。

「まさか記憶喪失?」

 シロ先輩は、小さく首を横に振った。

「そうじゃない。ただ小さい頃のことをあまり覚えてないだけ。写真とか見ても、いつの頃のことだか全然思い出せない」
「え?」
「と言っても、誰だってそうだろ? 小さい頃の記憶なんて曖昧なんじゃないか? 俺の場合、周りの奴にあまり興味がなかったからさ。余計に記憶に残ってないのかもしれないけど。まぁとにかく、その頃のことは、ほとんど覚えてないんだ」

 シロ先輩の話を聞いて、私の口からポロリと言葉がこぼれ落ちる。

「ああ、シロ先輩も小さい頃は人見知りだったんですもんね。今とは大違い」

 私の言葉を聞いたシロ先輩は、少し驚いた顔をした。

「おい。俺が人見知りだったこと、知ってたのかよ」
「はい。以前、白谷先輩が教えてくれました」
「あー。くそ。吟のやつ。いつもいつも、余計なことばかり」

 シロ先輩は、悔しそうな顔をした。私は思わずクスッと笑ってしまった。

「なんで笑うんだよ」

 シロ先輩は、不満げな顔をした。私は、慌てて首を振ると言った。

「いえ。ごめんなさい。シロ先輩と白谷先輩は仲が良くていいなと思っただけです」

 シロ先輩は、少し考えてから、また話し出した。

「まぁ、そうだな。あいつとはずっと一緒にいるからな。あいつとのことは、さすがに他の奴らよりは色々思い出せるな」

 その言葉に私は思わず食いつく。

「その割に、あの言葉のことは覚えてなかったですよね」
「あの言葉?」
「ほら。シロ先輩が好きなマンガの。『無理してもそれは本当の自分じゃない的な』やつです」

 私がそう言うと、シロ先輩は一瞬キョトンとした顔になった。それから、「ああ」と呟いて、ニヤッと笑った。

「そう言えば、シロヤギも好きな言葉だったな」

 突然戻った本題に、私は動揺しながらも尋ねる。

「やっぱり、シロヤギさんはシロ先輩なんじゃないんですか?」
「……それは」

 シロ先輩は、言い淀んでから、ふっと息を吐いた。そして、真っ直ぐに私を見ると、真面目な声で言った。