僕は、
白桃のような色の小さな彼の手をぎゅっとにぎった。もう二度と離れないように、と。
きみのうす赤い頬に涙がひとすじすうっとこぼれる。まるで、今、空から落ちて来た雨のように。
台風一過の空はあおい。この世のすべてをすすいだ色。台風が過ぎなければ見られない青だ。
サファイア、アズライト、アクアマリン。どの宝石よりもあおい青に染まる。
この世界は澄み切っておだやかだ。あらゆるものをなぎ倒して雨は行き、風も行く。
僕は彼のブラウスのそでをそっと引き、彼の手首にある紅いあざに口づけた。
ロープのような何かで縛られた跡に見えた。痛々しい烙印であるのに、彼の白桃のような肌にあると、それまでもが一個の芸術品に見えた。
包み込むように彼を抱きしめたら、彼が僕の背中に腕をまわし、強く抱きしめかえしてきた。
この世の中にはどうしようもないことがたくさんある。僕と彼のような若い者にも。いや、若いからこそどうしようもないことがある。
そんな理不尽に小さな牙をむくように、僕は彼に口づける。
昨日の夜、何度も、彼の叔父が口づけたのだろうその聖域に。
きみのアルトサックスがむせび鳴いている。勇ましく揚げた旗はひるがえる。
王子の瞳も彼の瞳もこの空のように澄み切って青い。美しすぎるほどに青い。残酷なほど。
彼の叔父はこの本を書いた人物だった。彼と同じ深い青色の瞳をしていて、彼があと数年歳を取ったらこう言う顔になるのだろうな、と言う顔立ちをしている。
僕はその作家を心から尊敬している。だから、
彼のように、いつか、そのお方に愛されたいのだ。
2025.09.27
Mika Aoi 蒼井深可
白桃のような色の小さな彼の手をぎゅっとにぎった。もう二度と離れないように、と。
きみのうす赤い頬に涙がひとすじすうっとこぼれる。まるで、今、空から落ちて来た雨のように。
台風一過の空はあおい。この世のすべてをすすいだ色。台風が過ぎなければ見られない青だ。
サファイア、アズライト、アクアマリン。どの宝石よりもあおい青に染まる。
この世界は澄み切っておだやかだ。あらゆるものをなぎ倒して雨は行き、風も行く。
僕は彼のブラウスのそでをそっと引き、彼の手首にある紅いあざに口づけた。
ロープのような何かで縛られた跡に見えた。痛々しい烙印であるのに、彼の白桃のような肌にあると、それまでもが一個の芸術品に見えた。
包み込むように彼を抱きしめたら、彼が僕の背中に腕をまわし、強く抱きしめかえしてきた。
この世の中にはどうしようもないことがたくさんある。僕と彼のような若い者にも。いや、若いからこそどうしようもないことがある。
そんな理不尽に小さな牙をむくように、僕は彼に口づける。
昨日の夜、何度も、彼の叔父が口づけたのだろうその聖域に。
きみのアルトサックスがむせび鳴いている。勇ましく揚げた旗はひるがえる。
王子の瞳も彼の瞳もこの空のように澄み切って青い。美しすぎるほどに青い。残酷なほど。
彼の叔父はこの本を書いた人物だった。彼と同じ深い青色の瞳をしていて、彼があと数年歳を取ったらこう言う顔になるのだろうな、と言う顔立ちをしている。
僕はその作家を心から尊敬している。だから、
彼のように、いつか、そのお方に愛されたいのだ。
2025.09.27
Mika Aoi 蒼井深可



