2025-09-24
『早く会いたい』

ずっと愛でていた訳だから
会えると思うと凄く嬉しい。

これまでにない痛みを伴うとしても
この世に生まれてくると思うと愉悦。

どんな名前にしようか悩んでいた。
けれど旦那のある一言を引き金に。

『海』という名前に決めた。

・・・

まだ子供を授かる前のことだった。
夏の暑さに負けてしまいそうな日。

私は旦那と海水浴場へと行った。
夏らしいことをしていないから。

久しぶりに着る水着は恥ずかしく
でも旦那が褒めてくれるたびに私
嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

「早く海に行こう」と旦那に言われる。
「そうだね、行こう」と答えて向かう。

暑くて倒れそうだった夏が
海の冷たさに敗北している。

丁度良いと思えるほどに適温だった。
「丁度良いね」と旦那と話し合う中。

砂浜のほうで家族連れが
幸せに満ちている様子を
目の当たりにしてしまい。

「子供っていいね、幸せの象徴みたい」と言った。
旦那は「大変なこともあると思う」と言うけれど。

「でも、子供が救いになることもあるね」と続けた。
私は「愛という言葉は子供に相応しいね」と言った。

・・・

それから数ヶ月後に子供を授かった。
日に日に大きくなるお腹が愛らしい。

まだこの世に生まれていないというのに
私のお腹の中ではすくすくと育っていく。

早く会いたい、子供に。

旦那が私のお腹に耳を当てたりして
足で蹴られたこともあったけれども。

それさえも生きているという証明だと思い
旦那と目を合わせて「幸せだね」と言った。

名前をどうするべきか、悩みに悩んでいた。
子供が一生寄り添うべく名前をどうするか。

そんなあるとき、旦那がこんなことを言った。

「海で一緒に子供を見ていたことあったよね」
「子供について話し合うきっかけみたいなの」

「うんそうだね、どうしたの？」と聞く私。

「俺、子供の名前『海』がいいと思う」
「広くて澄んでいて皆を包み込む様な」

私は否定的な言葉が一切出ず
旦那に「凄く良い」と言った。

子供がこの世に生まれてくるまで
私はどんなに苦しかろうと耐える。

まるで海のように大らかな気持ちで
受け止めてやるという気合いも含み。

「『海』、凄く良い名前だね」と私は言った。
「優しい気持ちになれるよね」と旦那も言う。

気に入ってくれたのだろうか。
お腹の中で動いた様に感じた。

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