では、お話しさせていただきます。少し長くなるかもしれませんが、お許しください。

 ミユと姉のミカは双子の姉妹でした。
 二人は揃ってこの高校に入学し、同じクラスになりました。
 私がそのクラスの担任でした。
 二人は一卵性双生児で、背格好、顔かたちはまったく同じに見えました。
 意識してなのか、真っ直ぐに伸ばした髪の長さ、制服の着こなし方まで同じで、まさに瓜二つでした。
 二人は仲が良く、登下校時も休み時間もいつもいっしょにいました。
 クラスメイトにも人気があり、クラスのアイドル的な存在になっていました。

 昨年の夏休みのことでした。
 ミカとミユの母親の元に、祖母のナオが亡くなったという連絡が入ったそうです。心筋梗塞による突然死だったそうです。
 ミカとミユの両親は忌引による休暇を取り、夏休み中だったミカ、ミユとともに母・マイの実家、狭山家へ向かいました。
 狭山家は東北地方の山間部にありました。
 大阪に単身赴任中だった父親とは東京駅で合流しました。
 四人は葬儀の前日の夕方に狭山家に到着しました。古くて大きな木造の家でした。
 家には伯母のウタ、大伯母のカズとその夫のヨシノブ、曾祖母のセツの四人が集まっていました。
 カズ、ヨシノブ、セツの三人はいずれの温厚な人柄で、ミカとミユに、よく来てくれたと優しい言葉を掛けてくれたそうです。
 ただ、伯母のウタだけは無口で、少し怖い目をしていたそうです。

 葬儀の当日。
 葬儀は近くのお寺で執り行われることになっていました。
 ミカ、ミユの両親をはじめ親族たちが朝から慌ただしく準備を進める中、ミユとミカは暇を持て余していました。
 狭山家のすぐ裏はもう緑の木々が生い茂る大きな山でした。
 その山を少し登ったところに小さな洞窟がありました。
 ミカは、子供の頃、両親に連れられて遊びに来た時にその洞窟を探検したことがあるのを思い出しました。
 あの洞窟へ行ってみよう、どちらから言い出すでもなく、そういうことになったそうです。

 子供の頃の記憶をたどって家の脇の細い山道を登って行くと、そこに洞窟はありました。
 しかしその入り口には鉄格子が嵌められていて中には入れないようになっていました。
 子供の頃に来た時の記憶では、鉄格子は洞窟の中ほどにあってそこまでは入れたはずでしたが。
 しばらく暗い洞窟の中を覗いた後、しかたなく二人は家へ引き返すことにしました。
 すると、山道の下の方に一人の女の子が立っているのが見えました。
 五、六歳くらい、オカッパ頭で白い浴衣を着ていました。
 きっと近所に住んでいる子だろう、ミカはそう思ったそうです。
 二人は山道を下りました。
 その子はそこに立ったままでした。
 その子の目の前まで来ました。
「こんにちは」とあいさつの言葉を掛けましたが、その子は何も言わずに二人を見つめていました。
 二人はそのままその子の横を通り抜けようとしました。
 すると、その子が言ったそうです。
「どっちが先?」
 どういう意味なのか、すぐにはわかりませんでした。
 狭い道ですから、ミカとミユ、どちらが先にその子の横を通るのか、という意味なのか、あるいは二人が瓜二つの双子だったので、二人のうちどちらが先に生まれたのか、どちらが姉なのかという意味なのか。
 ミカは、どちらにしても、自分が先だと思い、
「私が先よ」
 と答えました。
「そう、あなたが先……」
 その子はミカの顔を見て、そう言ったそうです。
 二人はそのままその子の脇を通り抜けました。ミカ、ミユの順番で。
 その子は洞窟の方を向いたままでした。
 二人はそのまま家に帰りました。

 その日の午後、祖母の葬儀が滞りなく執り行われました。
 翌日の朝、仕事があるからということで、母親は東京、父親は単身赴任先の大阪へと帰って行きました。
 ミカとミユはしばらく狭山家にいることにしました。
 夏休み中ですし、東京に比べれば格段に涼しく、少し足を延ばせば風光明媚な観光地もあったからです。

 その日は大伯母のカズの夫のヨシノブが車で近くの湖に連れて行ってくれたそうです。
 二人は美しい山々や湖を眺め、手漕ぎのボートに乗って楽しんだそうです。
 ボートは一緒に乗ったヨシノブが漕いでくれました。
 二人はそろいのTシャツに同じくそろいのジーンズの短パンという姿でした。
 美人の双子姉妹ということで他の観光客からも注目され、頻繁に声を掛けられたそうです。
 二人は笑顔で応えたということです。

 その夜。
 ミカとミユは一階の和室に布団を敷いてもらい、そこに寝ていました。
 家の中にいたのは、ミカ、ミユ、それに伯母のウタ、曾祖母のセツの四人でした。

 深夜。
 声が聞こえたきたそうです。
「……ナオです……入れて……入れてください……」
 和室の南側に障子があり、その向こう側は廊下、その向こうはサッシ戸になっていました。
 障子の向こう、おそらくサッシ戸の向こうからその声は聞こえてきているようでした。
 二人は同時に起き上がりました。
「中に入れてください……私です……ナオです……」
 前日、ナオの葬儀を終えたばかりです。二人は震えあがり、抱き合いました。
 声は続きました。
「カズさん……入れて……入れてください……カズさん……」
 声は、ナオの姉、大伯母のカズを呼んでいるようでした。
 その時、ミユが叫ぶように言ったそうです。
「カズさんはいません! ここにはいません! カズさんは、ヨシノブさんの家にいます!」
 すると、その声は止んだそうです。
 二人は怖くて、そのまま朝まで布団の中で抱き合っていたそうです。

 翌朝、外が明かるくなってからようやく、二人は布団から這い出しました。
 恐る恐る障子を開けてみましたが、サッシ戸の向こうには植木が並んだ庭があるばかりでした。
 部屋から出て居間へ行くと、そこにはもう曾祖母のセツが座っていました。
 セツはいつも夜明け前に起きているのだそうです。
 二人は昨晩のことをセツに話しました。
「やっぱり……そんなことになってしまったか……」
 セツはそう言いました。
 そしてセツは二人に、その家に伝わる昔話をしたそうです。遠い昔に起きた悲惨な出来事を。
 それは、こんな話でした。