終礼が終わったら、すぐに部室に走る。それが俺の日課だ。
 放課後、誰よりも先に会いたい人がいるからだ。
 新聞部と書いてあるドアの前で、切れた息を整える。
 ――先輩のことなんて、意識してませんアピールをしないと。好きバレだけは、したくないから。
 そっとドアを開けて「こんにちは」と言う。
 返事がないから、そのまま進んでいくと、パソコンを開きっぱなしで、机に伏せて寝ている黒髪の先輩がいた。
 今日は暖かいからいいけど、これから冬になるにつれてどんどん寒くなるんだから、こんな無防備な格好で寝ないでほしい。風邪を引かれたら、先輩と会う日数が減るんだから。
 向かいの席に座って、じっと先輩の寝顔を見た。顔が赤く見えるのは、部室が暑いからなのか、太陽に照らされているからなのか。
 そのままずっと見ていたかったけど、そろそろ先輩が起きる時間だ。ノートを広げて、昨日の続きをやっていく。
「ん……」
 眩しそうに目を凝らしながら、先輩は身を起こした。先輩の寝顔と寝起き姿を知っているのは、この学校では俺くらいだろう。
「おはようございます」
「また寝顔見られちゃった。おはよ」
 半開きの目がかわいいけど、その笑顔さえもかわいい。笑顔を見せられる度に、先輩に聞こえるんじゃないかってくらい心臓が音を立てる。
 ――こんなに好きなのになぁ。気づかないでほしいのに、気づいてもらえなくてもむかつく俺。
 中学まではサッカー部で、サッカーが大好きだったのに、それを辞めてまで入った新聞部。先輩に一目惚れしたからだ。
 サッカー少年が新聞部に入る。
 信じられないことだ。でも、新聞部に入っても後悔しないって確信が持てるくらい、先輩のことを想える自信があった。
 こんなに好きなのに、先輩は俺の気持ちを知らない。

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 今日も寝顔を見られちゃった。でも、彼にだったら見られてもいい。彼の前では、素でいたいから。
 彼が「こんにちは」と静かに入ってきたのはわかっていた。その声でいつも目が覚める。でも、彼の声が聞こえたから起きたなんて、冗談でも言えない。
 彼が向かいに座って、私の方をじっと見てくるから、顔が熱くなるのがわかる。だから、心の中でひっそりと祈る。
 ――彼にばれませんように、と。
 彼がノートを出したら、起きたふりをする。家で何回も練習して、いかに演技を上手くするかを考えている。
 自分でも、なんで寝たふりなんてするのかわからない。構ってほしいのかもしれない。でも。
 ――好きだって知らないからなぁ。
 彼は知らない。私が彼をどれだけ好きなのかということを。
 サッカー少年だったくせに、新聞部に入ってきたから、最初はびっくりしたし、私以外の部員のように、どうせ幽霊部員になるんだろうと思っていた。
 なのに、彼は毎日欠かさず来る。しかも必ず、私の次に。
 サッカーは大好きだったと聞いている。そんな大好きなサッカーを辞めてまで、新聞部に入った理由って?
 作業の途中で眠ってしまった彼を見て、私は聞きたくなる。
「……ねぇ、期待してもいいの……?」