「長老さん、ミリアルさん、みんなありがとうございました!」
「ソラ殿、このご恩は決して忘れませぬ。またいつでもこの里を訪れてくだされ」
「ソラくん、ありがとうな! クロウ様とシロガネ様もありがとうございました!」
「皆さん、本当にありがとうございました」
里のみんなから見送りを受けて、僕たちはアゲク村に向けて出発する。里にいたみんなは僕たちが見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。
エルフの里に到着してから3日が過ぎて、昨日の朝の段階ですでに聖天の樹は昔と同じにまで回復したけれど、念のためもう一日だけ様子を見ることに決まり、今日の朝に問題がないことを確認して里を出る。
エルフの里のみんなからは本当にいっぱいのお土産をもらった。作物の種や苗が山ほどあったけれど、さすがに荷物が持てないこともあって、できる限り小さな種や苗を優先して最小限の荷物にしてある。
実際のところ僕は温泉を出しただけだから、こんなにいっぱいもらっていいのかなと思ったけれど、アゲク村にはまだまだいろんなものが足りていないから、遠慮なくいただいてきた。今度はアゲク村まで来てくれるらしいから、それまでにお返しできるようなものができればいいなあ。
「帰りも同じ道を通ります。行きは盗賊にも遭遇したことですし、同じくらい気を付けていきましょう」
「うん」
ツタのトンネルをくぐりながらエルフの里の結界を出て、アレンディールの森へと戻る。
先頭を歩いてくれているのはセリシアさんだ。
「……えっと、改めてだけれど、セリシアさんは本当に僕たちと一緒にアゲク村へ帰ってもいいの?」
「も、もしかして迷惑だったでしょうか……?」
「ううん、そんなことはないよ! セリシアさんはとっても強くて物知りだから、みんなたくさん助けてもらっているからね。だけど聖天の樹を治したことはそんなに気にしないでほしいかな。やっぱり、同じエルフのみんながいる場所でいるのがいいのかなと思って」
セリシアさんはこのまま僕たちと一緒にアゲク村へ戻って、ずっと僕たちのお手伝いをしてくれる。僕たちにとってはすごく嬉しいことだけれど、同じエルフの仲間がたくさんいる里で暮らすのがいいんじゃないかなと思ってしまった。
「私たちエルフは受けた恩を必ず返します。今回の件でソラくんにはとっても大きな恩ができてしまいました。少なくともソラくんが大人になるまではおそばに置いていただけると嬉しいです」
「えっと……僕はとっても嬉しいけれど、セリシアさんが本当に自分でしたいようにしてね」
「ふふっ、ソラくんはそういう子ですものね。ええ、私がしたいようにさせていただきます。それに私はまだ未熟者なので、クロウ師匠とシロガネ師匠から学ぶことが山ほどありますから」
『うむ。里の者の魔法も見事であったが、まだまだ我らの方が威力は上であったからな』
『そうね、魔法だったら私たちも負けていないわよ』
セリシアさんも引き続きアゲク村まで一緒に帰ることとなって、僕もほっとしている。まだ出会ってから短いけれど、今回の旅もセリシアさんとはずっと一緒だった。
一緒にいた人と別れるのはすごく寂しいことだ。出会いがあれば別れもあることは僕自身もよく知っているけれど、もっとみんなと一緒にいられるといいな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『村が見えてきたわね』
「本当だ! やっと帰って来られたね!」
エルフの里を出てから3日後のお昼ごろ、ついにアゲク村が見えてきた。空を飛んで上からアゲク村を見ると、立派な壁があって誰かは分からないけれど、村の中にいる人が見えてきた。
帰り道は盗賊に遭遇したり、魔物と戦闘になることは一度もなく、とても順調だった。僕とセリシアさんがクロウとシロガネのスピードに少しだけ慣れたこともあり、疲れはすべて万能温泉で癒したことも早く帰れた要因かもしれない。
約十日間この村を離れていただけなのに、なんだかすごい長い間旅をしていた気分だ。やっぱり帰る場所があるっていうのは嬉しいなあ。
シロガネがゆっくりと下へ降りていって、クロウとセリシアさんと合流する。セリシアさんもクロウから降りて、ここからは歩いてアゲク村まで進む。
「みんな元気かなあ?」
「きっとみんな元気ですよ」
『そうだな。ソラも大袈裟だぞ。まだそれほど時間は経っていない』
『ふふっ、そうね。ソラったらよっぽど村に帰りたかったのね』
「うん!」
シロガネの言う通り、帰り道の途中ではアゲク村のことがとっても心配になっちゃった。
行きはエルフの里のことや聖天の樹のことを心配していたけれど、帰りにその不安がなくなったら、アゲク村のみんなが元気なのか気になっていた。新しく壁もできたから大丈夫だと思っていたけれど、途中で盗賊と遭遇したこともあって心配だったんだ。でも、さっき空から見て村が無事でほっとした。
村長さんにアリオさん。ローナちゃんやエマさんにグラルドさんたちは元気かな?
エルフの里のみんなからたくさんお土産をもらってきたから、みんな喜んでくれるといいなあ。


