「それでは乾杯!」
「「「乾杯!」」」
村長さんの音頭で今日の晩ご飯が始まった。
「うわあ~昨日のご飯よりもおいしいね!」
『うむ、これは悪くない。野菜が明らかに昨日のものよりも美味だ!』
『そうね、こんなおいしい野菜を食べたのは初めてかもしれないわ!』
今日の晩ご飯はクロウが狩ってきてくれたイノシシとシカのお肉と万能温泉のお湯で成長した野菜だ。
2人の言う通り、昨日のお野菜よりもシャキシャキして歯ごたえがあって、味がとても濃厚になっている。昨日の野菜でも十分おいしいと思っていたけれど、まだまだ上があったみたいだ。
この野菜は間違いなく元の世界で食べた野菜よりもおいしいと思う。
「うおっ、こりゃうまい!」
「ええ、本当に野菜がとてもおいしいわ!」
「それにこんなにたくさんの量を食べられるなんて最高だぜ!」
村のみんなもすごく喜んでくれている。そういえば、昨日よりもご飯の量が多い。あんまり作物の育ちが良くないって言っていたし、普段はお腹いっぱい食べることができないのかもしれない。
「これもソラ殿のおかげですな」
「ああ。まさか朝植えた種がもうあんなに育っているとは思わなかったぜ」
朝収穫した畑に新しく種を植えて、そこに万能温泉をかけたら、今日の夕方にはすでに芽が出てだいぶ成長していた。やっぱり万能温泉には植物の成長を促進させる効果があるみたいだ。
成長日記をつけるために朝顔を育てたことがあるけれど、あの時よりも早いスピードで成長していた。確かにこれなら、今までの何倍もの早さで野菜を収穫することができそうだ。
「他の畑も明日がどうなるか楽しみだぜ!」
万能温泉をかけた方が成長は早くなって、味がおいしくなることがわかったから、畑の全面に万能温泉のお湯をかけた。元の野菜の成長速度と比べるために10分の1くらいはそのまま残しておいて、畑全体にかけてみた。
もしも畑全体が今日と同じように成長してくれたら、みんな今日みたいにいつでもお腹いっぱい食べることができるのかな。
他にもいくつか試してみたことがあるから、明日がどうなるか楽しみだね。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふあ~あ。おはよう、クロウ、シロガネ」
『うむ、おはようソラ』
『おはよう、ソラ』
朝目を覚ますと、昨日と同じように僕の両隣にはクロウとシロガネがいてくれた。2人の温もりと柔らかさに包まれて、毎朝幸せな気分で起きられるね。
「おはよう」
「ソラお兄ちゃん、クロウくん、シロガネちゃんおはよう!」
「アリオさん、ローナちゃん、おはよう」
朝家の外に出て、みんながいる方へ行こうとするとアリオさんとローナちゃんがいた。
みんなはクロウとシロガネのことを様付けで呼ぶようになったけれど、ローナちゃんはそのままの呼び方をしている。エマさんはちゃんと様付けで呼びなさいと言っていたけれど、当のクロウとシロガネは気にしていないみたいだ。
「シロガネちゃん」
『はいはい、甘えん坊ねえ~』
そしてローナちゃんは小さくなっているシロガネに抱き着いて抱っこをする。最近はここがシロガネの定位置になっている気がする。
「畑の成長具合はすごかったぞ……。とりあえず、まずは見てくれ」
アリオさんについていき、村の畑へと移動する。
「うわあ~すっごいね!」
『これはまたなんとも……』
『本当に魔法よりもすごいわね』
昨日は3分の1だったけれど、今日は畑全体がさらに大きくなっているように見える。それに昨日種を植えていた場所もすごく伸びていた。
「昨日植えたこの作物は本来なら種を植えてから収穫まで100日くらいはかかるんだが、10日分くらいの成長速度だな」
「そんなに成長したんだ!」
つまり10倍くらいの成長速度になるのか。僕でもそれくらいの計算はできる。
『ソラの温泉があれば、それだけで食料問題も解決するな……』
『ええ。怪我や呪いを解除できるだけでもとんでもない能力なのに、とんでもないわね……』
「しかもこのやせ細った土地でもこれだけ大きな実を付けるんだから本当にすげえ!」
みんな畑の成長速度にとても驚いている。
よかった、僕も役に立てたようだ。やっぱりご飯がお腹いっぱい食べられることって大事だよね!
「ソラ殿、ちょっと来てもらってもいいだろうか?」
「うん」
昨日と同じように畑を手伝わせてもらっていると、村長さんが僕を呼びに来てくれた。そのままクロウとシロガネと一緒に万能温泉を配置していた場所に向かう。
「昨日ソラくんの温泉からお湯を汲んで、服を洗っていたの。さっきまでは服の汚れがすごく落ちていたんだけれど、急に普通の水に戻っちゃったみたいね」
「そうなんだ」
万能温泉のお湯を汲んで洋服を洗うと浄化の力で汚れが落ちていく。昨日から大きな桶にお湯を移して、洗濯用に使ってもらっていたんだけれど、エマさんが言うにはいきなりその効果がなくなってしまったみたいだ。
「ずっと効果が続くかと思っていたけれど、そうじゃないみたいだね」
『そういえば、昨日温泉からお湯を汲んでからちょうど1日くらいが過ぎたわね』
『なるほど。もしかするとソラの温泉の効力は温泉から離れれば、1日しか効力が持たないのかもしれぬな』


