「はい、リリスが欲しがっていた俺の国の言語の教材だよ」

「ありがとう!」

 遅めの昼ご飯を食べ終え、まずはリリスに頼まれていた日本語の教材を渡す。

 どうやらリリスは俺の世界の言葉を学びたいようだったので、本屋で子供用のひらがなとカタカナの教材を購入してきてあげた。

「あと俺の世界で一番使われている英語という言語の教材も買ってきたぞ」

 日本語は言語の中でも比較的難しいと聞いたことがある。ひらがな、カタカナ、漢字の3種類を覚えないといけないからな。改めて考えてみても面倒な言語である……。

 とはいえ、日本語なら俺が直接教えることが可能なので、まずは日本語の習得を目指すらしい。もしもリリスがこちらの世界に来られない原因を突き止めて、こちらの世界へ来られるようになれば鏡に組み込まれた魔法式で、言葉は分かるというのに熱心なことだ。

 まあ、こちらの世界に来られないからこそ、言葉や物から知識を得て参考にするのかもしれないけれどな。

「これはお礼」

 そう言いながら、また収納魔法という黒い渦に手を突っ込んで、金貨を手渡してくる。

「そこまでたいしたものじゃないから大丈夫だよ。それよりも、俺がいないときにまた徹夜で勉強するのはなしだぞ。病気や過労で倒れたら困るし、ちゃんと休息はとってくれよ」

「……わかった」

 若干不服そうだが、頷くリリス。徹夜は健康によくない。それにもしもここでリリスが倒れでもしたら、俺の世界に連れて行くことはできないし、ベリスタ村まで距離があり、医者がいるのかもわからないからな。

「それじゃあ昨日の続き」

「ああ、了解だ。その間ハリーはまたドローンで遊ぼうか?」

「キュキュ!」

 またお互いの世界についていろいろと教え合うとしよう。

 その間ハリーが退屈してしまうから、ドローンで一緒に遊ぶとしよう。



「原子は中心の原子核とその周りを回る電子で構成されています。電気はこの電子が原子核から離れて移動することによって発生します。金属などの物質は、一部の電子が自由に動き回ることができるため、電気を流すことができますだって……ごめん、俺も何を言っているのかさっぱりわからないや」

「……つまりすべての物は目には見えない小さな原子というもので構成されていると考えている。難しい……」

 小屋の外で椅子に座りながらスマホを操作して電気のことを調べているのだが、説明している俺でもさっぱりわからない。学生時代は文系だったからなあ……。

 Wi-Fiは小屋の外のこの辺りまで電波は届いてくれているので、ここにいてもネットで調べ物ができる。

「それにしても、そのスマホという物はすごい技術で作られている。紙のように文字を残すことができるし、風景をそのまま絵として記憶できるカメラ、なんでも調べられるネット。魔法でこれを作るにはどう頑張っても何十年、あるいは何百年も必要。それを貴族でもない一般人全員が持っているなんて信じられない……」

「確かに技術が高すぎて、大抵の人はその仕組みまで分からないんだよね。このドローンもそうだけれど、全世界が競争を始めてからの技術の進歩は本当に早かったな」

「キュキュウ~!」

 リリスとお互いの世界の話をしながら、ドローンを飛ばしてハリーと一緒に遊んでいる。

 日本の技術が一気に進んだのも鎖国が解かれて世界中と交流を持ち始めてからだっけな。

「こちらの世界ではまだ国同士の交易すらまともに行われていない……」

「まずは国内を統治してから別の国と国交を深めていくのはどこの世界でも変わらないみたいだね」

 どこの世界でもそういった歴史は変わらないものである。

 ……争いごとが起こるのは仕方のないことだが、こちらの世界の過ちはこの異世界で起こってほしくないものだ。まあ、そこまでいくと俺が心配しても仕方のないことだが。

「ケンタの世界の方が進み過ぎていて、私も少し心配になる」

「確かに国がこっちの世界の存在を知ったら、資源を独占しようとする人がいるかもね……。もちろん俺はそう言ったことをする気はないからね! ぶっちゃけこの湖辺りでのんびりしたり、おいしそうな食材を食べられればそれで満足だから!」

 この異世界に敵対すると思われてはたまらない。俺はただこの世界でのんびりとしたいだけだ。

「ケンタが悪人でないことはすでに分かっている。どちらかというと、ケンタの世界の権力者にバレることが心配」

 どうやら俺がこの世界で悪いことを企んでいないことはわかってもらえているらしい。まあ、我ながらのんびりしているだけだし、リリスにはいろいろと協力しているからな。

 やはりこの鏡のことは警察とかに話さないで正解だったようだ。

「さすがにうちの家がある場所は田舎だから大丈夫だと思うよ。対策もいろいろとしているからね」

 自分なりに対策はしているつもりだし、そもそもうちに来る人自体がいないからな。そっちはあまり心配する必要がないだろう。

 とはいえ、やはり国の権力者とかにバレるとまずいだろうなあ……。改めて他の人に秘密がバレないように気を付けないと。