「お、ラブコン優勝者じゃないですか?」

 細貝と部室に向かっているとモトが無理やり僕たちの間に入ってきて、あろうことか肩を組んできた。
 でも背の高い細貝の肩を組むのは辛いらしく背伸びをしているから、傍から見ればバランスの悪い案山子だろう。

 「おい、有馬に気安く触るな」

 細貝は驚くほどの身のこなしでモトに掴まれていた腕を取っ払ってくれた。ダウンに埃がついているのかパタパタと叩いてくれる。

 「ありがとう」
 「まったく有馬は隙だらけだ。可愛いんだから、注意してないと」
 「僕を可愛いなんて言うのは細貝だけだよ」
 「そんなことない。世界中の人が思ってる」
 「オーバーだな」

 細貝の賛辞は続き、僕の可愛さは地球規模から段々と宇宙に広がっていく。自分の容姿にこれっぽちも自信はなかったけど、細貝に力説されると少しだけ前を向ける。

 「あの……おれのこと忘れてません?」
 「忘れてた。で、ラブコンがなんだっけ?」

 僕が振り返るとモトはげっそりと頬がこけている。たった一瞬で五キロほど痩せてしまったらしい。

 「だからラブコン優勝者ですねって……なんかもうどうでもよくなってきたわ」
 「その話、引きずってるのモトだけだよ」
 「そんなことない! まだ旬なネタだろ」
 「文化祭からもう一か月半経つんだけど」
 「人の噂は四十九日と言うだろ!」
 「七十五日だよ。でもそう言われるとまだ二か月経ってないんだね」

 いつの間にか後ろから抱きついている細貝を振り返ると「そうだな」と頷いてくれる。
 後夜祭で僕たちはラブコンに出場し、優勝したのだ。
 司会のマキちゃんさんが僕たちの出会いから付き合うまでの話を赤裸々に語り、細貝の一途さに会場全員が射貫かれ、最高得点を叩き出したのだ。
 女子からは悲鳴があがっていたが、ショックと歓喜の二つが混じっているとマキちゃんさんは分析している。
 ちなみにマキちゃんさんは他校に彼氏がいたらしく、シークレットで出場し、その場にいた男子生徒数名がガチ泣きしていた。
 そのあとは校内新聞でインタビューを受けたり、クラスメイトや部活でもひとしきり揶揄われたが、一か月も過ぎればみんな飽きてしまったらしい。
 夏休み前に付き合ったときも騒がれていたので、新鮮味もないのだろう。
 だから僕たちの話はすぐ鎮火した。それでもいまも引っ張り出してくるのはモトくらいだ。
 モトは偉そうに鼻を鳴らしている。

 「だろ? みんなが忘れないようにおれが掘り出してるわけ」
 「他にやることがないの?」
 「言ってやるなよ、有馬。もうすぐクリスマスだっていうのに本楽の予定は大会だけなんだせ」
 「おまえらもだろ!!」

 明後日のクリスマスイヴとクリスマスの両日に市大会が行われる。なぜかクリスマスに行うという高校生泣かせの大会で、部員たちからも不評だ。

 「だから大会終わったら男テニでパーティーしようよ」
 「それを誘いたかったわけね」

 モトの目的がわかり僕は頷いた。最初から普通に誘えばいいものの、なぜこうやって遠回りをするのだろうか。
 細貝は僕の頭に顎をのせてぐりぐりと押しつけてくる。僕がちょっとでもモトと話しているとこうやって甘えてくるのだ。

 (可愛いな)

 前に回された手を撫でてあげると細貝は満足げに笑った。

 「目の前でいちゃつかないでもらえます?」

 モトは毛虫を踏んでしまったかのように僕たちを見ている。いま最高にラブラブ期だからこれくらい許して欲しい。

 「クリスマスは俺と有馬、二人で過ごすから無理」
 「二人もみんなも変わんねぇじゃん!」
 「……その日、細貝の誕生日なんだよ」

 二十五日は細貝がこの世に生を受けた大切な日だ。大会のあとは細貝の家に泊まり、一緒に過ごすと約束している。もちろんプレゼントも用意した。

 「けっ、くそぉ〜気持ちいいくらいラブラブじゃんか……いいよ、男テニだけでめちゃくちゃ盛り上がってやるからな!」
 「あとで写真見せてね」
 「リアタイで送りつけるわ!」

 ぷんすかとモトは怒りながら先に歩き出してしまった。そんなモトを細貝と笑いながら追いかけた。





 大会は無事に終わり、細貝がシングルスで優勝した。団体戦は細貝抜きで準決勝まで健闘し、ダブルスは山本たち一年生がブロック優勝をしている。
 かなりの大金星だ。
 日村先生は大喜びでクリスマスということもあり、フライドチキンをみんなに奢ってくれた。それを頬張りながら僕と細貝は駅まで歩いている。
 細貝は犬のようにフライドチキンに齧りつき、満面の笑みを浮かべた。

 「やっぱ肉うめぇ〜最高!」
 「久しぶりに食べるけど特別感があるよね」
 「だな! 俺、こういうの初めて食った」
 「いつもクリスマス何食べてるの?」
 「うちはじいちゃんもばあちゃんも年寄りだからな。お祝い事は基本的に寿司」
 「和風だね」

 確かに高齢者にチキンやピザはきついだろう。けれど、それは細貝の気持ちを全部無視して、自分たちばかり優先しているように見える。

 「じゃあ今日は細貝の好きなやつ、いっぱい食べよう」
 「ありがとう!」

 早々に食べ終わった細貝は脂がついた手をタオルで拭いた。

 「家にちゃんと連絡した?」
 「もちろん。前もって言ってたから大丈夫だよ」
 「有馬がうちに泊まりに来てくれるなんてまだ夢みたいだ」

 僕は頰を赤らめながら頷いた。
 細貝と一緒に住んでいるおじいさんとおばあさんは、老人会の集まりで熱海に一泊二日の旅行に出かけているらしい。
 それを知って、僕は泊まりたいと提案した。
 細貝の誕生日を一人で過ごさせたくなかったからだ。
 驚きながらも細貝に了承してもらえ、おじいさんとおばあさんにも許可を取ってくれた。もちろん僕の両親にも事前に話してある。
 最初は微妙な顔をされたけど、兄ちゃんが「俺も文化祭で会ったけど、いい奴だよ」と後押ししてくれたのでなんとかなった。
 兄ちゃんの鶴の一声で承諾されたことが悔しい。
 いまだ兄ちゃんへの劣等感はあるものの、細貝がいてくれるから前よりは肩肘張らずに済んでいる。
 朝早くから試合があったので疲れているけど、これからが本番なのだ。
 細貝の家の最寄り駅に着き、スーパーで飲み物と朝食を買い、閉店間際のケーキ屋で予約していたクリスマスケーキを受け取った。 チョコプレートには「誕生日おめでとう」と書いてもらっている。

 「こんなことしなくていいのに」
 「だめ。初めて二人で過ごす誕生日なんだから、ちゃんとしようよ」
 「有馬のそういうとこ好き」

 ケーキ箱を掲げた細貝は嬉しそうに目尻を下げた。その笑顔を見られただけで、僕の胸はいっぱいになってしまう。





 順番で風呂に入ってからサーフボードぐらいありそうなテーブルに細貝と一緒に料理を並べた。
 ピザとシーザーサラダ、フライドチキンは細貝のリクエストで、寿司は細貝のおばあさんが用意してくれていたらしい。
 テーブルいっぱいにのった料理に細貝は目を丸くさせている。

 「こんな贅沢していいのか」
 「誕生日なんだから当然だよ」
 「そうだよな。こんな誕生日初めて。でも一番のメインは有馬かな」
 「バカ!」

 抱きしめてこようとする細貝を押しのけて椅子に座らせた。
 渋々座った細貝だったが、腹が減っていたのだろう。すぐにわりばしを割った。

 「じゃあ食うか」
 「ちょっと待って。その前に」

 僕は椅子の後ろに隠していたラッピングされている箱を細貝に渡した。

 「誕生日おめでとう。あとメリークリスマス!」
 「ありがとう! 開けてもいい?」
 「どうぞ」

 細貝はおやつを前にした犬のように爛々と目を輝かせて、リボンを丁寧に解いた。僕はその様子をそわそわと見つめたり、天井の四隅を見上げたりと落ち着かない。

 (細貝が喜んでくれるといいんだけど)

 誕生日になにが欲しいか訊いても細貝は「いらない」の一点張りだったので、僕が悩みに悩んで選んだものだ。

 「お、グリップテープじゃん」
 「この前なくなりそうって言ってたでしょ?」
 「こういう消耗品ってすげぇ助かる」
 「ちなみに……お揃いなんだ」
 「まじで? めっちゃ嬉しい!」

 テニスラケットの持つ部分をグリップと言って、滑り止め用に巻くテープをグリップテープと呼ぶ。
 すぐ穴があいたり、手汗で汚れてしまうので半月に一度は貼り替えないとならない。地味に出費がかさむテニス用品の一つだ。
 細貝のラケットは淡い水色の本体に黒のラインが入ったものなので、グリップテープはよく青色を使っていた。
 僕のラケットはオレンジなので黒が多い。
 せっかくならと青のグリップテープに変えてお揃いにしたかったのだ。
 細貝は不思議そうにテープと僕を見比べている。

 「有馬ってお揃いとか平気?」
 「うん……わりと好き、みたい」
 「俺も。めっちゃ嬉しい。ダメになったらまた同じ色にしよ」
 「もちろん!」

 喜んでもらえてよかった。でもこれだけじゃないんだぞ。

 「あれ、もう一個入ってる?」

 細貝は箱の底をごそごそと探った。

 「やば! これってスマートウォッチ?」
 「そう」
 「高かったんじゃない?」
 「そんなことないよ」
 「嬉しい! こういうのが欲しかったんだ」
 「よかった」
 「これもお揃い?」
 「もちろん」

僕はポケットにしまったスマートウォッチを出した。二人ともバンドの色は黒にしている。
本体の液晶画面は卵のような形をしていて、画面が押しやすいと評判が高い。バッテリーのもちもよく、電話やラインの通知だけでなく、心拍数、歩数計、時計、アラームなどの役割も兼ね備えている。
 少し値が張ったけど、モトが持っているのを見た細貝が「いいなー」とこぼしていたから絶対に買おうと決めていたのだ。

 「まじ嬉しい。俺、幸せ過ぎて死んじゃうかも」
 「死なないで長生きしてよ。ほら、ご飯食べよう」
 「そうだな」

 僕たちはやっと夕ご飯にありつけた。あまりに空腹だったせいか一瞬で平らげてしまい、デザートのケーキもすぐ腹におさまった。





 「やべ、何回見てもニヤける」
 「もうやめてよ」

 細貝は設定を終えたスマートフォッチを左腕につけ、何度も天井に掲げてはだらしがない笑みを浮かべている。
 僕たちは食事を終えて、細貝の部屋に移動した。
 説明書を読みながらスマートウォッチをどうにか設定でき、せっかくだからとグリップも巻くことにしたのだ。
 でも細貝はどうしてもスマートウォッチの存在が気になってしまうようで、グリップを巻く手が何度も中断してしまっている。所々歪んでいるが細貝は気にする余裕もないらしい。

 「だってお揃いが二つもあるんだもん。カップルって感じるわ」
 「ちょっとバカップルっぽいかな?」
 「周りにどう思われようが関係ないね」

 細貝の力強い言葉は弱気になる僕の背中を押してくれる。「そうだね」と返すと白い歯を覗かせてくれた。

 (細貝がお揃いに抵抗なくてよかった)

 同じものを持っているだけで細貝が近くにいてくれるようで嬉しい。心が繋がっているような気がする。
 ピピッと慣れない通知音に僕たちは同時にスマートウォッチに視線を落とした。そのあと机に置いた細貝のスマホの着信が鳴り始める。
 画面を確認した細貝は形のいい眉を寄せた。

 「電話?」
 「うん……でもいい」

 細貝はスマホの液晶画面を下に向けた。でもずっと着信は鳴り止まない。

 「もしかして急ぎの用かもよ? 僕、外に出てようか」
 「いや、いいよ」
 「でも」

 音に連動しているように細貝の表情が暗くなっていく。
 今日はせっかくの細貝の誕生日だ。さっきまで楽しかった空気が暗く淀んでしまっている。
 僕がじっとみつめていると細貝は頭を掻いた。

 「わかった、出るよ」
 「じゃあ僕は外にーー」
 「ここにいて」

 細貝に掴まれた腕が弱々しい。あまりに頼りない姿に胸が締めつけられる。
 電話がくるだけで細貝をこんな辛そうな顔にさせるってどんな人物なのだろう。
 細貝に手を繋がれたまま、僕はクッションの上に座った。それを確認した細貝は反対の手でスマホをタップする。

 「もしもし、俺……うん」

 相手の声は聞こえるけど、内容まではわからない。
 細貝が頷いたり、「うん」と短い返事をするだけなのに色を塗り潰していくように声に覇気がなくなっていく。
 このまま消えてなくなってしまうそうで、僕は繋がれた手に力を込めた。

 (どんなことがあっても細貝のそばにいるよ)

 僕の想いを届けるように、ただぎゅっと握っていた。

 「わかった……じゃあまたねーーごめん、長く待たせちゃって」
 「平気だよ」
 「母親から。誕生日おめでとうだって」
 「お〜よかったじゃん」

 なにがよかったのかわからないけど、少しでも元気になって欲しくて僕は努めて明るく言った。細貝はうんと頷いてくれる。

 「うちはやりたいことは自由にやるって主義だから、両親もじいちゃんたちも人の気持ちを考えるってできないんだよね」
 「干渉されないならストレスなさそうじゃん」
 「それはあるかも」

 細貝の家はかなり自由主義なようだ。やりたいものはなんでもやらしてくれる。でも失敗したときの責任は、全部自分で負うらしい。
 結構シビアだよ、と細貝は苦笑した。

 「だから好きなテニスも必死になってやってきたけど、高校で終わりかな。俺の実力じゃアマチュアにもプロにもなれないし、このまま続けても先はない」
 「そんなに上手いのに辞めちゃうの?」
 「サークルとかお遊びでは続けると思うけど、いまみたいに本気になってやらないかな。他にやりたいことできたし、そっち優先したい」
 「なにを始めるの?」
 「有馬」

 掴まれたままの手に力が入る。指先の血流が止まって心音に合わせてどきどきと鳴った。

 「有馬とずっと一緒にいられるように努力したい」
 「いまのままでも充分だよ」
 「だめ。有馬は魅力的なんだから、いつ取られるわかんないし」
 「それは僕のセリフだよ」

 カッコよくて、運動神経がよくて、頭がいい。イケメン定義の三拍子が揃った細貝は誰が見てもモテ要素を詰めたような男だ。
 僕は顔も平凡だし、勉強も普通。役職だけが立派なただのモブだ。
 だが細貝は眉間の皺を深くさせている。

 「いつも本楽がベタベタしてるし、有馬って結構女子ウケいいんだよ。そうやって無自覚だからタチが悪い」
 「誰も僕になんて興味はないでしょ。モトは中学から付き合いがあるってだけてみんなにも馴れ馴れしいよ」

 現にモトは細貝とも肩を組んだり、抱きついたりと過度なスキンシップをしている。それを見るたび僕が嫉妬をしていることに、この男は気づいているのだろうか。

 「だから牽制の意味を込めて、俺からのクリスマスプレゼント」

 細貝がスウェットのポケットから出したのは手のひらサイズの小さな箱だ。見るからに高そうで、ちょっと怯んでしまう。

 「開けて」

 有無を言わさぬ強い声音に僕は頷いた。 
 手を離してもらい、変な皺がつかないようそっとリボンを解いて、箱を開けた。

 「……めっちゃカッコいい」

 柔らかいクッションの中にちょこんとのっていたのはシルバーのダブルリングネックレスだ。ファッションに疎い僕でも知っているくらいの有名ブランドのロゴが彫られて、驚きのあまり落としそうになった。

 「これ高校生が買えるレベル!?」
 「お年玉貯金してるから余裕」
 「なんか申し訳ないな。でも嬉しい。すげぇカッコいい」

 細いチェーンと小ぶりなダブルリングはシンプルで僕好みだ。傷一つなくキラキラと輝いているので、額縁に入れて飾っておきたい。

 「それ、付けてもいい?」
 「勿体ない。このまま飾る」
 「だめ。牽制の意味ないでしょ」
 「じゃあ……お願いします」

 ネックスレスなんて生まれてこのかた付けたことがない。僕は細貝に箱を渡して背中を向けた。
 細貝が僕の首にネックレスをかけてくれる。少しだけひんやりするけど、すぐ体温に馴染んでくれた。

 「今日からずっと付けててね。絶対外しちゃダメだよ」
 「えっ! ずっと? 風呂も?」
 「そうだよ」
 「でも傷つけたくないな」
 「プラチナ素材だから大丈夫。それよりも外さないって約束して」
 「どうして?」

 僕が振り返ると思ったより細貝の顔が近くにあった。驚いて逃げようとする僕の腰を抱いて、細貝の胸の中におさめられてしまう。 唇が首筋に触れられ、肌がざわざわした。

 「有馬は俺のだって証拠」
 「首輪ってこと?」
 「そうだよ」

 細貝は白い歯を覗かせて笑った。僕も釣られて笑ってしまう。
 お互いかなり重たいプレゼントだが、その重量が釣り合っていて安心する。
 僕はダブルリングを手に取った。

 「大事にするね」
 「うん。俺も大事にする」
 「嬉しい」

 細貝の顔が近づいてきて、意図を察して僕は目を瞑った。柔らかい唇が触れ合う。
 もう何度もしているというのに僕の心臓はいまだに高鳴ってしまい、体温が急激に上昇する。
 僕の身体を包んでくれる細貝の熱が心地よい。スウェットの肌触りだけじゃない、細貝の体躯が僕の身体とぴったり当てはまるのだ。
 まるでパズルのようにお互い欠けていた部分を補っている。
 唇を離すと水気を含んだ睫毛に縁どられた瞳と合う。もっとと、訴えかけてくる欲深さに僕は笑ってしまった。

 「なに笑ってんだよ」
 「細貝に愛されてるなぁって」
 「俺が言った通りになっただろ?」
 ーー「よし、決めた。これから毎日有馬に告白する。そして俺を好きになってもらう」

 細貝は宣言通り、毎日僕に愛を告げてくれた。そして僕が抱えていた悩みもすべて受け止めてくれ、いつしか本当に細貝を好きになっていた。
 まさに有言実行である。
 細貝が勇気を出してくれなかったら、僕たちの人生は交わることはなかっただろう。

 「僕を好きになってくれてありがとう」
 「こちらこそ、好きにさせてくれてありがとう」
 「なにそれ」
 「ラケットを貸してくれたあの日から、俺の人生は有馬一筋だよ」

 臆面もなく言うセリフに照れてしまう。羞恥心という感情が欠落した細貝に、いつか慣れるのだろうか。
 頬が熱くなるのを感じながら僕は細貝を見上げた。

 「あ、雪」

 細貝の後ろにある窓からちらちらと白い粒子が舞い降りてきているのが見える。部屋が温かいので全然気づかなかった。

 「誕生日にホワイトクリスマスっていいな」
 「来年も雪が降るといいね」

 僕ははたと思いついた。

 「来年も再来年もこの先ずっと一緒にいるって立候補していい?」

 細貝は目を瞠るときゅっと笑った。

 「じゃあお願いしちゃおうかな」

 僕たちは額をこつんと合わせ、約束を誓うようにもう一度キスをした。