ジムノペディ / きみに贈ることば

 僕は、俳優みたく自分の言葉でないものを口から出すことにはかなり抵抗があるのだと改めて話すと、彼女は「それなら」といった。
「じゃあ、ユウシは自分で書いたものなら読めるんだよね?」
「ええ? ……そ、そんなものないよ」

 それは、厳密にいうと嘘である。
 詩か日記かわからないようなものなら、自分の部屋のノートに書きつけてある。
 家族にも秘密のノートだ。

「自分で書いたら? それを私に読んで聞かせてくれたら問題ないよね」
「……そういう理屈?」
 僕は思わず短い笑い声を立てた。
 でも、自作品を音読するなら確かにその方が抵抗は低い。
 その代わり、僕の心の中を彼女にあけすけに語るなんて、気恥ずかしさを通り越して無理だった。

 君に恋をした、なんてことを正直に口にしたら、どんなことになるだろう。
 もし彼女が受け入れなかった場合、僕らの関係が一瞬にして終わってしまう。
 そのことが一番怖かった。
 
 伝えたいけど、伝えられない。
 僕の想いを受け止めてもらえないのだとしたら、二人のつながり方は今のままがましである。

 重苦しい葛藤が、僕を押し包んだ。

 彼女が鍵盤の上で自由自在に音を軽やかに転がしてみせるように、僕も言葉の世界を思うままに飛び回っているつもりだったのに、その心の翼がいかに無力だったか、そこで思い知らされたのだった。