やがて彼女は「ありがと」と言った。
それから、一瞬片方の熱っぽい頬を僕のにこすり合わせると、たちまち背中を向けて、瞬く間に車に乗って行ってしまった。
それでも、とうとう彼女への想いが昇華できたことに、僕はまさに感無量だった。
そして彼女の頬の柔らかさの余韻と、鮮やかな残り香に、僕はそのまましばらく、ぼんやりと立ち尽くしていた。
彼女へのときめいた気持ちをかみしめているうちに、夕闇が蒼く迫ってくる。
彼女もまたこの同じ蒼の下で今、僕と交わした言葉の意味を思っているのだと分かってくる。
僕はしだいに充ちみちたものを感じながら、ゆっくりと自転車にまたがり、やがて地面を蹴り出した。
いつもの帰り路を走ると、ふだんは冷たく白けていたはずの暗い街灯たちが、今日はいつになく優しく光を放っていた。
そして、あたかも僕を祝福するかのように、淡く照らし出し包みこんだのだった。
(了)
それから、一瞬片方の熱っぽい頬を僕のにこすり合わせると、たちまち背中を向けて、瞬く間に車に乗って行ってしまった。
それでも、とうとう彼女への想いが昇華できたことに、僕はまさに感無量だった。
そして彼女の頬の柔らかさの余韻と、鮮やかな残り香に、僕はそのまましばらく、ぼんやりと立ち尽くしていた。
彼女へのときめいた気持ちをかみしめているうちに、夕闇が蒼く迫ってくる。
彼女もまたこの同じ蒼の下で今、僕と交わした言葉の意味を思っているのだと分かってくる。
僕はしだいに充ちみちたものを感じながら、ゆっくりと自転車にまたがり、やがて地面を蹴り出した。
いつもの帰り路を走ると、ふだんは冷たく白けていたはずの暗い街灯たちが、今日はいつになく優しく光を放っていた。
そして、あたかも僕を祝福するかのように、淡く照らし出し包みこんだのだった。
(了)



