僕の手にはまだ、彼女の肩掛け鞄があった。
それを最後に手渡すつもりでいるのだった。
オレンジ色の太陽に包まれた昇降口を飛び出すと、正門側にある駐車場を目指した。
ちょうどあす未が両親と三人で歩いているところを見つけた。
両親の手前、彼女のことを「宮嶋さん」と呼ぶのが無難な気がしたものの、呼び慣れずうまく声が掛けられないでいると、僕の駆け寄る足音が聞こえたのだろう。彼女は、こちらに振り向くと立ち止まって、顔の横でひらひらと手を振った。
それに応えるように僕が鞄を持つ右手の拳を高く掲げると、彼女は白い歯を見せた。
彼女の両親は、そのやり取りの気配に、ちらりとこちらに目をやったものの、すぐにそばにあったオフホワイトのSUVに乗り込んだ。
彼女のそばまでやって来て、僕は右手を伸ばしてそのまま鞄を手渡した。「これ……」
「ありがと」
そう彼女が短くいったとき、期せずして互いの指先が触れ合った。
とっさに僕は、初めて彼女の手に触れたあの日のことを思い出す。
彼女もまたそうなのだろうか。
その状態のままで僕も彼女もすっかり黙り込んでしまい、自然と互いに互いの瞳の奥をまじまじと見入った。
どれほどのあいだか、そうしていたが、ふっと何かを思い出したかのように、僕はもう一方の手にあったノートをつかみ直した。
もう迷いはなかった。
口元を彼女に寄せると、つい消え入りそうな弱々しい声となりながらも精一杯の思いを込めて告げた。
「あす未。僕は君が好きだ」
それを最後に手渡すつもりでいるのだった。
オレンジ色の太陽に包まれた昇降口を飛び出すと、正門側にある駐車場を目指した。
ちょうどあす未が両親と三人で歩いているところを見つけた。
両親の手前、彼女のことを「宮嶋さん」と呼ぶのが無難な気がしたものの、呼び慣れずうまく声が掛けられないでいると、僕の駆け寄る足音が聞こえたのだろう。彼女は、こちらに振り向くと立ち止まって、顔の横でひらひらと手を振った。
それに応えるように僕が鞄を持つ右手の拳を高く掲げると、彼女は白い歯を見せた。
彼女の両親は、そのやり取りの気配に、ちらりとこちらに目をやったものの、すぐにそばにあったオフホワイトのSUVに乗り込んだ。
彼女のそばまでやって来て、僕は右手を伸ばしてそのまま鞄を手渡した。「これ……」
「ありがと」
そう彼女が短くいったとき、期せずして互いの指先が触れ合った。
とっさに僕は、初めて彼女の手に触れたあの日のことを思い出す。
彼女もまたそうなのだろうか。
その状態のままで僕も彼女もすっかり黙り込んでしまい、自然と互いに互いの瞳の奥をまじまじと見入った。
どれほどのあいだか、そうしていたが、ふっと何かを思い出したかのように、僕はもう一方の手にあったノートをつかみ直した。
もう迷いはなかった。
口元を彼女に寄せると、つい消え入りそうな弱々しい声となりながらも精一杯の思いを込めて告げた。
「あす未。僕は君が好きだ」



