それにたいして淡い笑みを口元に浮かべると、あす未は振り返り、ピアノの端に片手をそっと置いた。
「やっぱりね、全然弾けなくなってた……」
そう肩を落とした彼女のそばに、羽鳥先生が寄り添い、気持ち明るく言った。「まあ、しかたないよ。ブランクがあったんだし」
僕は間髪入れず、きっぱりといった。
「でも、分かったよ。誰の音なのか」
あす未は怪訝そうにした。「ほんとに?」
「ほんと。ほんとだよ。すぐにあす未の音って分かった」
「……そっかあ……」
彼女はうれしいのか、それでもなお浮かないのか、どうも推し測れない弱々しい声音だったが、自分なりのことが言い切れた僕は内心ほっとしていた。
ただ、そこからは再び何も言えなくなってしまった。
現時点で彼女はどういった事情にあるのか分からないし、自分の口から病状等を聞き出すのはやはり憚られたのである。
が、現にこうして東京から戻って目の前に現れたのだから、夏場に迎えた危機は脱したということだろうと思った。
「今日から学校に戻ってきたの?」
ようやく僕は、そんなさりげない切り出しを思いついた。
すると、彼女はゆっくりと首を振った。
一旦家へ戻ってきて欲しい荷物を持ち出したついでに、放課後の時間に合わせて学校へ顔を出したのだという。
今、進路指導室で彼女の両親と担任の高良先生の面談をしているそうで、そのあいだだけのつもりで、こちらへ足を運んだらしい。
「やっぱりね、全然弾けなくなってた……」
そう肩を落とした彼女のそばに、羽鳥先生が寄り添い、気持ち明るく言った。「まあ、しかたないよ。ブランクがあったんだし」
僕は間髪入れず、きっぱりといった。
「でも、分かったよ。誰の音なのか」
あす未は怪訝そうにした。「ほんとに?」
「ほんと。ほんとだよ。すぐにあす未の音って分かった」
「……そっかあ……」
彼女はうれしいのか、それでもなお浮かないのか、どうも推し測れない弱々しい声音だったが、自分なりのことが言い切れた僕は内心ほっとしていた。
ただ、そこからは再び何も言えなくなってしまった。
現時点で彼女はどういった事情にあるのか分からないし、自分の口から病状等を聞き出すのはやはり憚られたのである。
が、現にこうして東京から戻って目の前に現れたのだから、夏場に迎えた危機は脱したということだろうと思った。
「今日から学校に戻ってきたの?」
ようやく僕は、そんなさりげない切り出しを思いついた。
すると、彼女はゆっくりと首を振った。
一旦家へ戻ってきて欲しい荷物を持ち出したついでに、放課後の時間に合わせて学校へ顔を出したのだという。
今、進路指導室で彼女の両親と担任の高良先生の面談をしているそうで、そのあいだだけのつもりで、こちらへ足を運んだらしい。



