暦の上では冬に向かい始めたが、今年は暖冬が予想されているらしい。
 それでも僕は、日に日に太陽が傾き、その照らす時間が短くなっていくのを、敏感に感じ取っていた。
 それがまた、自分が時の流れとともに絶え間なく彼女を失い続けているような、寂しい錯覚を起こしてもいた。

 僕は、この頃はすぐに日陰に覆われてしまう中庭の一角で、相変わらずノートを手にペンを構えていた。
 その日に限ってスマホをしまい込んだまま、まずは風の音に聴き入りながら息を潜めて、インスピレーションが湧いてくるのを待っていた。

 このごろは枯れた井戸のように、もう新しく綴るべき言葉が見当たらなくなっている。
 特に今日は、ノートの罫線に合わせてペン先を当ててみても、それが一向に走り出す気配がなかった。

 まるで自分の心が死んでしまったのではないかと思われた、まさにそのときだった。

 思わず見上げる。
(……あ?)

 校舎で四角く型どられた空が、急速に眩しく光で満ちみちていく。
 あたかも、曇り空を割って這い出た太陽がそうであるように。
 そして、空の青が色を濃くした。