「今年ももうあと二か月だね」

 炊事をしながら額にかかった髪を撫でた母親が、そのようなことを言い出す季節まで進んでも、彼女は学校に戻ってくる気配はなかった。
 彼女がいないまま、いたときと変わらず機械のようにまったく同じように日常をこなしていく周りの人間たちを見ていると、僕は疎外感やどこか裏寒いものに囚われていきそうになる。
 
 周りがおかしいのだろうか。
 あるいは、この僕が狂っているというのだろうか。

 そんなことを深く考え込む日もだいぶ増えた。
 たとえば、あす未が再び僕の前に現れる未来だとか、今そこにないもの、目に見えないものを信じようとするのは、神や仏を敬う人たちに垣間みえる無力さと現実との遊離に相通じているような気がした。

 愛も恋も、たしかに僕の胸を貫いているが、たとえ彼女が現れてもそれを受け入れられなければ、夢や幻を見ていたに過ぎなかったことになる。
 そういう実に頼りないものを頼りにせざるを得ない今の僕は、やはり心細いただのひ弱な一匹の生き物に過ぎなかった。

 彼女を本当に失ったときに備えて、僕はどんな予防線が張れるだろうか。
 級友がいかにも訳知り顔で、おそらく受け売りで言っていたことがある。
「女なんて、他にも世の中たくさんいるんだよ。一人の女に振り回されることはないさ」と。
 たしかに理論上、あるいは周りを見れば女性は、男性とほぼ同じだけの数がいる。