ふと、あす未が僕の小脇に抱えた本を指さした。「それ……」
「これ? どうかした?」
「いつも、持っているよね。何の本なの?」
「……小説」
「読むのが遅いの? それとも繰り返し読んでるの?」
これは、スノール・フィッシャーという今は亡き欧州作家の「ジャデーニ・ペンシーリ(空中庭園)」という百年ほど前の古い作品だ。
詩的とされる彼の文章をまた、詩人・沢口幸治の訳したものである。
僕はとりあえず面白くはないといったものの、あくまで他人に薦めるものではないというだけで、実はこの小説作品をこよなく愛していた。
彼女の奏でるメロディがそうであるように、彼女もまた僕が繰り返しこれを読んでいることに気づいていたようだった。
気に入った箇所を何度も読み返しているというと、彼女はうれしそうに目を細めた。
「とにかく詩情にあふれた作品なんだ」と僕が説明した。それにたいして、あす未は深くうなづいた。
「好きなフレーズがあったりするんだ?」
「まあ、そうだね」
すると、彼女は「そこ、読んでみてよ」といって目を閉じた。
「ねえ、ほら。私に読んで聞かせて」
「これ? どうかした?」
「いつも、持っているよね。何の本なの?」
「……小説」
「読むのが遅いの? それとも繰り返し読んでるの?」
これは、スノール・フィッシャーという今は亡き欧州作家の「ジャデーニ・ペンシーリ(空中庭園)」という百年ほど前の古い作品だ。
詩的とされる彼の文章をまた、詩人・沢口幸治の訳したものである。
僕はとりあえず面白くはないといったものの、あくまで他人に薦めるものではないというだけで、実はこの小説作品をこよなく愛していた。
彼女の奏でるメロディがそうであるように、彼女もまた僕が繰り返しこれを読んでいることに気づいていたようだった。
気に入った箇所を何度も読み返しているというと、彼女はうれしそうに目を細めた。
「とにかく詩情にあふれた作品なんだ」と僕が説明した。それにたいして、あす未は深くうなづいた。
「好きなフレーズがあったりするんだ?」
「まあ、そうだね」
すると、彼女は「そこ、読んでみてよ」といって目を閉じた。
「ねえ、ほら。私に読んで聞かせて」



