「電話で少し話したんだけど……君は、その、彼女のことはどこまで知っていたのかな」
 あまりにも漠然とした問いに、僕は答えに困ってしまう。
「……どこまで、ってどういう意味ですか」
 彼は「たしかに、そうだな」と漏らした。
 それから、僕の目をじっと見てから間を置き、ようやく言った。
「彼女の……病気のことだ」

 瞬間、僕の心の中が、しんと静まる。
 ややして、かぶりを振った。「初めて知りました」

「そっか……」
 彼は天井を仰ぎ見た。
「まあ、いい。結論から言おう。彼女は、手術そのものは成功したらしい」

 ほっとして良いのかどうか分からない僕は、黙って次の言を待った。

「彼女は八月に入ってから受けた市の医療センターでの検査で、緊急に手術が必要だということが分かったんだ。しかも、手術実績のある東京の医大への転院が必要だった」
「宮嶋さんは、僕にはひと言もそんなことは……」
 すると、彼は顎をさすった。
「彼女も知らないままだったようだ。初めはえらく急な東京への家族旅行だと思っていたらしい。が、さすがに着く前までには打ち明けられたんだろうな。泊まる先がホテルじゃなくて病院だから」