内心驚くも僕は、眉ひとつ動かさなかった。
 単に、それほどまでに無気力が勝っていただけかもしれない。
 せっかく引き合わせてもらったのに、張り合いがなさそうに見えただろうということに、僕なりに少し申し訳なく思った。
 それでも高良という教師は「おいで」と厚い手を僕の肩に手を置くと、職員室の外へ連れ出した。

 中庭の見えるところまで来ると、窓の外から野球部の掛け声や球を打つ金属音が聞こえている中、彼が話しかけてきた。

「あの宮嶋さんと仲良くしていたらしいね」
 僕はどういう用件か測りかねて、黙って頷いた。
 
「彼女がいきなり東京へ行ってしまって、君ががっかりしているようだという話を聞いていたんだけど?」
 間違いはないので、もう一度頷いた。
 それを見た彼は、窓の方へ向くと何の飾りもなく言った。

「その宮嶋さんから最近学校の方へ連絡があってね」

 遠く感じていた、いやむしろ固く閉ざされていたとさえ感じていたあす未のことが一気に鼻先に迫ってきた。
 そういう感触に、僕の胸が高鳴った。

「ほ、……本当ですか」

 実に野暮な受け答えだと思ったが、他に言葉が浮かばなかった。
 それでも、彼女のことを自分の口から出せるのは、ささやかな喜びがあった。