それで羽鳥先生と再び顔を合わせてあいさつをしても、元気そうにして見せるのは困難だった。
 それが今朝も声に現れていたからこそ、彼女に僕を放っておけない思いにさせてしまったのだと思う。
 とは言え、まさか彼女に自分のあす未を想う今の気持ちを赤裸々に語るわけにもいかない。
 単純に恥ずかしいし、それは僕だけの秘密の感情だから、自分の中に固く閉じ込めておきたいのである。

 だから、あす未が好きだという気持ちが見透かされていたとしても、こうやって出向いたところで僕は先生にいったい何を打ち明けることになるのか、まるで想像がつかなかった。

 ノックのあと部屋に入ると、どこか香ばしい匂いがした。
「風間君は、コーヒー飲む?」
 見ると、教師用の古ぼけた机の上には白いカップがのっていた。
 僕が首を振りかけると、それを予知していたかのように彼女は迷わずもう一個カップを出した。それから小さなパックから黒い粉状のものを入れて水筒から湯を注いだ。
 そこに砂糖やミルクを加えて、手際良くかき混ぜると、僕に差し出した。
 その彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「はい、これ。大人の気分になれるかもよ」