彼女がどれほど清らかで美しいのか。
 僕が彼女をどれほど大事に思っているのか。
 恋すること、そして愛することの普遍的な意味に、手が届きそうになっている僕の心の風景とか。

 今なら彼女に迷わず話したいことが、そのノートにびっしりと書かれている。
 が、そのぴったりだと思っていた言葉も、翌日には力をなくしていくのだった。

 なぜだろう。
 昨日の僕と、今日の僕の相違がそうさせているのだとしたら、今日書いたものも明日には必ず陳腐化するという約束が発生してしまう。
 それでも、いつかあす未に届けるために書いて残す意味がどこにあるのだろうか。

 止まらない想いとペン先とは相反した問いかけが、いつのまにか僕の胸を離れなくなった。
 それで僕の身体がまるで右と左に、あるいは上と下に引き裂かれてしまうようなおぞましい感覚が、終始僕を捕らえて離さなくなったのである。

「風間くん……?」

 声を掛けられたのは一階の廊下だった。
 うつむき加減だった顔を上げると、この前の女性の音楽教師だった。

「あ、羽鳥先生、おはようございます」