二学期に入った。

 僕は幻や残像でもいいと彼女の姿を求めて、始業式のあった日の午後、いつも二人で会っていたあの部屋を訪れた。
 奥の音楽室からは、ブラスバンド部員らの金管楽器の音がしきりに漏れていた。

 固く閉じている準備室の扉をノックする。
 まもなく中から聞き慣れない女性の声がした。
 姿勢を正してしばらく待っていると、いつか見たことのある、背の高い音楽教師が顔を出した。
「……えっと、君は……?」
「あの……」
 僕は、あす未の消息を知っていないかを聞き出そうとしたが、そのとき初めてあす未の名字を知らなかったことに気づいた。
 それでも、僕はクラスと名前を名乗った上で「いますか?」と訊いた。
「誰のこと?」
 僕は、口ごもりながらもあす未の名を出した。
 教師は首をかしげ眉をしかめたが、僕がさらに「ジムノペディを弾いていた……」と言うと思い当たったらしい。

「ああ、宮嶋さんのことね」
 僕が頷くと、彼女は一度廊下を見回してから手招きした。
「入りなさい。中で話そうか」