彼女の気配が残した感触に浸りながら、その日は帰路についた。
 そして、悶々として眠れない暑苦しい夜を過ごした。


 その翌朝、いつもどおり軽めの朝食をすませて、自転車をまたぎ、中学校へ向かった。
 いつもの中庭の端に腰掛け、ノートを開いてペンを走らせながら、時々明るい空を見上げては彼女の音が聴こえてくるのを待った。

 が、それから彼女と会うことはなかった。
 彼女の連絡先も住む場所も知らないままだった僕は、その週末の花火大会も、独りで暗い部屋に閉じこもった。
 そして、遠くで重く低く鳴り響く音のひとつひとつに、言葉にできない悲しみで涙をにじませていた。