この曲を選んだ理由にこそ、彼女の心境を投影されていると僕は踏んだのである。
 
 彼女は首を傾けて、物を思い出そうとする仕草をしてから、やがて語り始めた。


 古代ギリシャの祭り「ジムノペディア」が曲名のルーツである。
 意味としては「裸の少年たちの踊り」だが、サティはその様子の描かれた当時の壺に感銘を受けて、この曲を書いたといわれている。


「へえ……」
 説明を聞いてもやはり大した言葉が出てこない。
 音楽のことに限らず、唐突に未知の世界、新しい知識と出会ったら、アウェー感が先立ってしまう。
 それに僕は、間近で見る彼女の顔や身体の線が織りなす影に心を奪われつつある。
 さすがにそんな状況では、とっさに気の利いたことはなかなか言えない。