「ほんと、いい曲だね。なんて曲?」
僕は、戸口に立ったまま訊いた。
彼女は爽やかな春風のように「ジムノペディ第一番」と口にして、それから「サティ」といい足した。
「あ、そう。ジムノペディね。おぼえとくよ。ありがと」
それを聞き流したかのように、彼女はそそくさと帰り支度を始めた。
そこで僕は、あやしい人間だと彼女に思われたくなかったので、自分から名乗ることにした。「あのー、僕さ、2-Bの風間」
彼女は、手を止めて僕を見た。「……ふうん。下の名前は?」
「ユ、ユウシ」
「どんな字書くの?」
「優しいって字に、志す……」
するとそれまでほとんど表情のなかった彼女の顔が、急にほころんだ。「ふうん、いい名前だね」
「お……、あ、ありがとう」
そんなこと、これまで誰にも言われたことがない僕は頭が途端に、ぼおっとなる。
その様子を目にしたせいだろう、彼女の頬に深くしわが寄った。
「あはは。私は、あす未。……“あす”も“未”も未来のことになるのかな」
そういって、彼女はわずかに白い歯をのぞかせた。
僕は、戸口に立ったまま訊いた。
彼女は爽やかな春風のように「ジムノペディ第一番」と口にして、それから「サティ」といい足した。
「あ、そう。ジムノペディね。おぼえとくよ。ありがと」
それを聞き流したかのように、彼女はそそくさと帰り支度を始めた。
そこで僕は、あやしい人間だと彼女に思われたくなかったので、自分から名乗ることにした。「あのー、僕さ、2-Bの風間」
彼女は、手を止めて僕を見た。「……ふうん。下の名前は?」
「ユ、ユウシ」
「どんな字書くの?」
「優しいって字に、志す……」
するとそれまでほとんど表情のなかった彼女の顔が、急にほころんだ。「ふうん、いい名前だね」
「お……、あ、ありがとう」
そんなこと、これまで誰にも言われたことがない僕は頭が途端に、ぼおっとなる。
その様子を目にしたせいだろう、彼女の頬に深くしわが寄った。
「あはは。私は、あす未。……“あす”も“未”も未来のことになるのかな」
そういって、彼女はわずかに白い歯をのぞかせた。



