そう言って見上げた窓の外では、盛る太陽の日差しが校舎の時計台を、煌々と照らし出していた。

「高音域から低音域まで幅広くカバーして、なおかつ、リズムも強弱も自在に表現できるピアノは、心に映るものすべてを音にできるといわれているんだよね」

 それから彼女は形のよい唇を少し尖らせた。「でもさ」
「音に色合いを与える能力が低いと、どんなに素敵なイメージを持っていても、それを相手に伝える、表現することができないんだ」

 僕が何も言えないでいるのを見て取ったのか、彼女はさらに口を開いた。

「それでね、子どもの頃からずっとクラシックピアノを習ってきたけど、自分の鳴らしたい音を追いかけるなら、いつかロックやジャズにも手を伸ばさなくてはならないと思ってるんだ」

 もっとも親には変な癖がつくからそれは駄目だと口うるさく言われているけどね、と言い足すと、彼女は悪戯っぽく舌を出した。

 一方で僕は、彼女の内面にある痛みを伴う演奏イメージを深堀りしたくなっていた。

「ところでさ、“ジムノペディ”という言葉の意味は?」