週が明けた。
 あす未は、いつもとなにも変わった様子がなかった。
 勇気を出して誘ったのが、まるで夢であったかのように、僕も彼女も週末の花火の話題を出さなかった。

「今日はね、いつもと違うように曲が弾けたんだ」

 頬を上気させた彼女は、少しはにかんでみせた。
 が、僕にはその違いがわからなかった。
 嘘のつけない僕が、ようやく「へえ……」とだけいうと、彼女は口元を大げさににんまりとさせた。
「ユウシは、たぶん気づいてないと思うけど……」
 僕が思わず頷きかけると、彼女はすかさず右手で拳骨を作って振り上げた。「もう!」
 そうは言いながらも彼女は白い歯を見せて、いつもの笑顔を弾けさせた。

「ぐっと近づけたんだ。私が鳴らしたかった音にさ」

 歌には歌い方や声によって与える印象がまったく違うように、ピアニストの解釈や技術によって音が変わるようだとはなんとなく理解はしていた。
 そして、あいにくこの僕が、その違いを聴き分ける耳を持ち合わせていないこともまた理解できた。

 音楽的センスにどうやら欠けている僕には音を構成するリズムや速さ、高低、強弱の違いがあることはわかっても、音楽として、官能的にどう感じたらよいのか、よくわからないままだった。