ジムノペディ / きみに贈ることば

 家の冷蔵庫に貼られたカレンダーを眺めた。
 夏という季節はいつからか僕にとって特別となっていた。何ごともなくこのまま夏が終わってしまうことを思うと、僕は焦りの感情に囚われて、いてもたってもいられなくなる。
 太陽の熱が肌も心も焦がしていく、この時期特有の空気が僕をそんなふうに追い込んでいくのだった。

 だから、今日はあす未がいるとわかったときは、僕はなおさらはやる気持ちで、あの音楽準備室につながる階段を駆け上った。
 彼女は、そんな汗まみれの僕を見て笑った。

「どうしたの? いったい何ごとなの?」
 僕は部屋の前まで来ると颯爽と歩いてみせたのに、彼女はそういって、いかにもおかしそうに笑った。

 こんなやり取りも、近い将来、どういう思い出になるのかな。

 人生を眺めるにあたって前向きに振り切ることのできない僕は、そう思わずにいられなかった。