奇跡はきっと。

「ただいまー。」
「、、、」
「ただいま母さん。」
「帰ったのね。」
「うん。バイト行ってくる」
「えぇ。」
うちは貧乏だ。
いや正確には貧乏になったの方が正しいのかもしれない。
中学では普通だった。
それなりのお金があってそれなりに生活出来ていた。それが変わったのは中三の夏。
父と母が離婚した。
母からは「あんたがいなければもっと早くアイツと離れられたのに。」と言われた。
薄々きずいていた。
両親の仲が良くないことも、自分のせいで離婚できないことも。
父はいわゆる仕事人間で俺にも母にも興味がなかったし、俺もあまり興味がなかった。
授業参観や発表会、運動会にも来た覚えがなかったし最初は少し期待したがそれもなくなった。
そんな俺は1人の孫を愛してくれる母方の祖母と祖父に甘えていた。
母から感じられるのは育てなくてはいけないという義務感のようなものだったし父に関しては家にいてもいなくてもそこまで変わらない。
祖母と祖父からは愛を感じられたし居心地が良かった。

でもそんな生活は長くは続かなかった。
祖父が亡くなった。その二ヶ月後に祖母も後を追うように急死。中三の夏だった。当時受けようとしていた高校は母と父の家からは遠かったしあまり偏差値も高くなかった。成長するにつれて元の家に帰らなくなったから両親との接し方も分からない。
自分の決断を否定されるのも両親と対立してまでも入りたかった高校ではなかったので否定も肯定もされないような平々凡々な高校に入った。
そんな人生だったからか、「親からの愛情」に貪欲で愛を貰ってるくせに行動しないやつに腹が立っていた。

だからだろう。あの子に腹が立つのは。
結局はこのどうにも出来ない大きなドロドロとした他人には理解し難い感情を見えない相手にぶつけることでしか自分の形を守れないのだ。